19 『つながる出会いと城那皐の値打ち』

 サツキは、各隊との連絡をクコから受け、フウサイに聞いた。


「フウサイ」

「はっ」

「次の敵は」

「この先の角を左に曲がったところにござる」

「了解」


かげがくれじゅつ》は影に隠れられる。これで姿を隠しながらしゃべっているのだが、フウサイは影分身を四方に飛ばし、この円城都市を俯瞰的に見てくれていた。


 ――そもそも、フウサイならほとんどの盗賊たちを一人で始末できるだろう。でも、それだとえいぐみの活躍がわかりにくいものになってしまう。


 また。


 ――アルブレア王国側……つまりブロッキニオ大臣側に、フウサイの存在をあまり知られたくない。フウサイに関する情報は希薄にしたい。


 だから、フウサイは目立つ戦闘をせず、情報収集に徹してもらっている。


「この先ね」


 ルカが言って三人が曲がると、そこには盗賊たちがいた。


「いました!」


 発見したクコが声を上げる。

 盗賊が五人。

 三人の男性に絡んでいるところだった。

 中でもがたいのいい二十代後半くらいのガンダス人が前に出て、盗賊たちをにらみつけている。


「ワタシは商売道具を黙って奪われてやる気はないよ?」

「てめえ、やろうってのか!」

「ああ、やってやってもいい」


 がっしりと腕組みしているそのガンダス人は、背が一八〇センチ以上と高いため、盗賊たちを見下ろす形になる。

 腰の剣に手を伸ばしたところで、サツキは声をかける。


「御用改めである! よろしいかね?」


 帽子のつばに指をかけ、サツキは盗賊たちをねめつけた。


 ――あの人は強そうだが、商人のようだ。市民に手出しはさせられない。


 五人の盗賊たちの中のリーダーが叫ぶ。


「なんだコラ! このオレとやろうっていうからなにかと思えば、ただのガキじゃねえか!」

えいぐみという」


 冷静にサツキが名乗る。


「なんだって? んなこたあどうでもいい。死にてえなら先にてめえらからやってやんよ」

「来たまえ」


 挑発するサツキ。

 注意を引くためだった。

 盗賊たち五人の注意がサツキたちに集まっている間に、ガンダス人の後ろから静かに近づいてきた二人が声をかける。


「今のうちにこちらへ」

「に、逃げて……ください」


 司令隊と行動を共にしていた参番隊のチナミとナズナである。二人は、盗賊たちがいる場所を把握したあと、反対側に回っていた。そちらから市民を安全な場所へ誘導する役割のためだった。

 そこで、がたいのいいガンダス人は眉根を寄せる。


「……ええっと? ああ、思い出した。キミたち、ラナージャで会わなかったかい?」

「え」


 ナズナがびくっとするが、チナミはすぐに思い当たる。


「その節はどうもです。でも、今は急いで逃げてください。ここは私たちに任せて」


 ラナージャという言葉であの『せんきゃくばんらいこうわん』での記憶をたどって、ナズナも遅ればせながら思い出した。


 ――そっか……。わたし、この人とぶつかっちゃったんだ……。


 確か、おもちゃや骨董品を置いていた屋台の人だった。

 チナミが彼らを盗賊たちから引き離そうとするが、そのガンダス人たちは離れようとしなかった。


「はっはっは。こんな小さな子たちに守られるのも悪い。ワタシにも戦わせてくれるかな」

「シャハルバードさん、さすがです。この人は戦っても強いぞ」


 と、二十歳くらいの金髪の青年が誇らしげに言った。

 十歳くらいの丸顔の少年が盗賊たちのほうを見つめたまま、


「でも、あの三人、めちゃくちゃ強いよ?」


 とサツキ、ルカ、クコを指さす。


「そ、そうだな。もう五人を倒してしまった」


 金髪の青年も驚いた顔をしていた。

 チナミが目を向けると、盗賊たちはあっという間にやられてしまっていた。ルカが三人を《とうざんけんじゅ》で倒し、サツキとクコがひとりずつ倒したらしい。

 さっと駆け寄り、チナミが盗賊たちを縄で縛る。


「ルカ、一応この人たちの応急手当を」


 わざわざ怪我の手当まで指示するサツキに、それを淡々とこなすルカ。


「なにしやがる!」

「縄をほどけ!」


 意識のある二人だけが喚く。残る三人は痛みやショックで気を失っているから静かなものだが、サツキはそれを無視する。


「《グリップボード》! これで、しばらくは動けません!」


 クコは縛られたあとの盗賊を、優しくぽんと後ろに押す。すると、彼らは壁に背をつけ、盗賊たちは動けなくなってしまった。

 それらを見ていた通行人たちは感心と驚きがまじった反応だった。


「すげえ」

「かっけえー」

「あっという間だったよ。正義の味方だね」


 クコはサツキに言った。


「あとは手の空いた方に警察に引き渡していただきましょう。三時間はこのままですが」

「うむ。では、行こう。失礼します」


 ガンダス人たちに挨拶したサツキが立ち去りかけ、ナズナもぺこりと頭を下げたところで、盗賊から声がかかった。


「このガキがァァァ! ぜっっっっっったいに! 許っ、すぅ……」

「《みんえん》。寝ていてください」


 チナミが扇子を舞わせて、砂を相手の目に入れた。この砂が目に入ると眠ってしまう魔法である。盗賊たちは眠りに落ちた。いびきまでかいている。

 ガンダス人はサツキに向き直って、


「助けていただきありがとうございます。あなた方はどうも、正義の味方のような人たちらしい。ワタシたちも同行させてもらっていいかな?」


 まさかの申し出に、サツキはついクコを見る。

 クコはにこりとサツキに微笑みかけた。


「いいと思います」


 不意に手を握られる。


「(なぜだかわかりませんが、とても信頼できる方のように思えます)」


 魔法《精神感応ハンド・コネクト》によってテレパシーでそれだけ伝えられた。


「(そうか)」

「(はい)」


 今度はルカを見るが、


「局長の判断に任せるわ」


 と言うのみなので、サツキも決めた。


 ――この人たちは戦える感じだし、足手まといにはならないだろう。むしろ、市民の避難や誘導に当たってもらえると助かるか。


 帽子を取って、サツキは頭を下げた。


「もったいない申し出です。でも、市民の方々の安全が第一。特に、避難や誘導を手伝ってくださると助かります」

「こちらこそ!」

「あ、おいらは急いで馬車に戻るよ。荷物も心配だしさ」

「頼んだ、アリ」


 アリと呼ばれた少年が馬車に戻ることを了承し、駆け去る彼を見送ると、ガンダス人は改めて自己紹介をした。


「ワタシは旅の商人、人呼んで『ふなり』シャハルバードだ」

「あなたが、『船乗り』シャハルバードさん……?」


 有名な商人ということで、聞いたことがある名だった。確か、ラナージャで出会った泥棒カップルのアジタとサーミヤがその名を口にしていた。


「おや。ワタシのことを知っていたのかな。うれしいね。よろしく頼むよ」


 すっかり名乗るのを忘れていたサツキは、


「士衛組局長、しろさつきです」


 そう言って、帽子をかぶった。

 シャハルバードはサツキの人相を占う。


 ――うん、いい面構えだ。いやまったく、七度目の航海ではおもしろい出会いが多い。投資したくなる人間ばかりに出会う。過去最高額はキミヨシくんの三億両だったか。まだ出会ったばかりだが、ひと目でわかる。城那皐、彼の値打ちは……。

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