32 『機械好きの友人』

「すみません。大丈夫ですか?」


 そう言われて、サツキは慌てて答える。


「あ、はい。大丈夫です」


 サツキはルカと共にアイスを食べようと船着場に戻ってきたのだが、そこで突然登場した青年二人組にぶつかってしまったのである。アイスが青年の服にもついてしまった。

 しかし、青年は気にした様子もない。


「お怪我もないようですね。驚かせて申し訳ありません」


 紳士的な口調で落ち着いた雰囲気の青年である。頭にゴーグルをかけ、前髪は逆立っている。髪色はグレーがかり、やや無骨そうだが鼻筋の通った顔立ちをしている。身長は一七六センチ。


「悪いね。たまにあるんだ、ぶつかってしまうことが」


 隣の青年は、やや長めの金髪で、しゃべりも見た目も爽やかだった。ゴーグルの青年と背もほとんど変わらないが、こちらのほうが一センチは低いだろうか。手にはカードを持っていた。

 ピンときてサツキは問うた。


「あの、魔法ですか?」

「そうだよ。オレの魔法……というか、オレの妹の魔法なんだけどね。ワープっていうのかな。世界中、いろんな場所に一瞬で行ける」


 金髪の青年が説明し、ゴーグルの青年が魔法名を教えてくれる。


「《出没自在ワールドトリップ》というんです」

「どこへでも、行ったことのある街へ一瞬で移動できる。術者が触れている相手も一緒に移動可能。つまり、オレがこうしてロメオの肩に手をかけているから、二人でワープしてきたってわけさ」


 サツキは我に返った。


「すみません。つい魔法の説明に夢中になってしまって。まずはお洋服を……」

「いいよ。オレが綺麗に掃除する」

「頼む、レオーネ」

「ああ」


 と、金髪の青年・レオーネがロメオと呼んだほうの青年に向き直った。カードを一枚、空中に捨てるように置く。よく見ると、その横には山札があり、そこから三枚のカードを引いた。


「来た。《せいそうふう》」


 レオーネが唱えると、カードが扇子に変化した。扇子を扇いでロメオに風を送る。すると、ロメオの服についていたアイスが飛ばされて服が綺麗になった。シミもない。風の力で乾いたかに見える。まるで新品のようである。

 そして、レオーネの扇子が消えた。


「扇いで風を送ると、表面にある汚れを吹き飛ばすことができる。昔、晴和人に教えてもらったんだ。きれい好きな晴和人らしい魔法だよ」

「ありがとう」

「いいさ」

「さあ、レオーネ。挨拶をしよう」

「おっとそうだった。じゃあオレから」


 と、レオーネは爽やかに微笑んだ。


「はじめまして。オレは、振作令央音ブレッサ・レオーネ。年は二十一。隣のロメオも同じだ。あと、あえて今言うべきこともないかな」

「ワタシは、狩合呂芽緒カリア・ロメオといいます。年はレオーネと同じです。そうですね、レオーネの言っていないところでは、ワタシたちはイストリア人です。とある仕事のためにこちらまで来たのですが、それは伏せさせていただきます」


 レオーネとロメオの挨拶にサツキとルカも返す。


「俺は士衛組局長、しろさつきです」

「同じく士衛組総長、たからです」


 チラとレオーネがロメオに視線を送り、


「士衛組……知らない名だな」


 とささやく。


「できたばかりの組織です。とある目的のため、アルブレア王国を目指しています。詳しいことはあまり言えませんが」

「そうでしたか」


 ロメオが応じ、サツキはおずおずと聞いた。


「質問させてもらってもいいですか?」

「どうぞ」


 レオーネに促される。


「教えてもらった魔法と言っていましたが、教えられたらどんな魔法でも使えるんですか?」

「オレの場合はね」

「カードで、ですか」

「目の付け所がいい。そう。魔法については隠すつもりもないから言うと、オレは《盗賊遊戯シーフデュエリスト》という魔法を使う。相手から盗んだ魔法をカード化し、デッキを作る。山札から引いて手札を作り、手札から使いたい魔法を選択する。細かいことはあとで機会があれば教えてあげるよ。まあつまり、オレが使える魔法はランダム性を伴うってことだ」

「ちなみに、レオーネは盗むと表現しましたが、盗むのは魔法の原理や情報であり、盗まれた相手はその後も魔法を使えます。盗める条件は言えませんが、それが教わるという形でも成立するわけなんです」

「なるほど。ありがとうございます。俺も魔法を教えましょうか」


 相手に聞いておいて、自分は言わないのも失礼だと思い、サツキは申し出た。しかしレオーネは手を振った。


「いいや。構わないさ。教えてくれなくてもいい。互いの魔法について教え合うのも、オレ相手では平等じゃないからね」

「すみませんが、そう言ってくださった好意に甘えさせていただきます」


 目礼するサツキ。

 ふと、ルカの手に持っていたアイスからクリームがこぼれて手についてしまった。


「あら……」

「そうだった。お楽しみを邪魔してしまって悪かったね。アイスをご馳走しよう」


 レオーネがそう言って、ロメオと二人でアイスを買ってきてくれた。ご馳走になって、二人とはまた少し話した。

 年も離れているのにサツキは二人となんだか気が合って、話題は機械についてとなっていた。


「その自動車っていうのは、なにかの物語の中に登場したものなのかい?」

「あぁ……ええと、そんな感じでしょうか」


 まさか自分が異世界から来たとは言えないから、サツキもそこだけは濁すしかない。

 気にした様子もなくレオーネはそうかと言った。


「夢中になってしまったけど、だいぶ暗くなって来たな」

「いい時間になってる」


 と、ロメオが腕時計を見る。その腕時計も機械仕掛けといったデザインで、二人が機械好きなのがよくわかる。


「では、我々はそろそろ失礼するよ。行こう、ロメオ」

「ああ。そうしよう、と言いたいが……」

「そうだな。まさか巻き込んでしまうとはね。話に花が咲き過ぎた」

「やるか、レオーネ」

「当然だ、ロメオ」


 二人の言葉を聞き、サツキとルカも気配を感じた。

 振り返ると、そこにスーツ姿のマフィアが十人以上もいた。


「サツキさん。彼らは我々が敵対するイストリア王国のマフィア組織です」

「だが、心配はいらないよ。オレとロメオで戦おう。ついでに、やつらのアジトも潰さなくてはならないんでね」

「お二人は下がっていてください」


 ロメオとレオーネからそう言われても、サツキはうなずかなかった。ルカを見やり、


「ルカ」

「わかってるわ」


 と、ルカは微笑する。


「レオーネさん、ロメオさん。俺とルカも加勢させてください」

「せっかく友人になったんだ。怪我はさせたくないが、キミたちなら戦えそうだね。では、頼まれてくれるかい? オレとロメオの援護を」

「はい」


 サツキの返事を受け、レオーネは爽やかに微笑んだ。


「助かるよ。じゃあ、ついてきてくれ」


 マフィアたちは銃を構えており、剣で戦う者はその中にはいなかった。ナイフ使いが三人ほど混じっているが、銃が彼らの主な武器になる。

 レオーネは山札からカードを一枚引いた。


「きた。ちょうどいい。《ブロックナット》」

「撃て!」


 マフィアたちが銃撃を始めた。

 その瞬間、レオーネはカードを前方に投げた。美しく回転しながら投げられたカードはポンと消える。

 そして、大量の銃弾が、止まった。

 すべての銃弾が空中で静止したのである。


 ――いや、ただ止まったんじゃない。


 サツキは、目の魔法を使わずともわかった。


「ナットで、止めた……?」

「そう。回転する物を止める魔法さ」


 レオーネがそう言うと同時に、銃弾がカランカランと地面に落ちていった。


「銃弾は回転することで速さと威力を与える。だが、このナットはその回転にハマってくれる代物なんだ」

「い、一旦、撤退だー!」


 マフィアが逃げてゆく。

 レオーネはカードを一枚、鋭くマフィアに投げる。マフィアの一人にぶつかったが、本人はそれに気づかず逃げていった。カードはぶつかった拍子に消えている。


「《でんゆうどう》。こいつがあれば安心だ」


 それからレオーネはサツキとルカに言った。


「オレとロメオはこれからやつらのアジトを潰しに行くけど、来るかい?」

「怪我の一つもさせませんよ」


 ロメオもそう言ってくれた。

 サツキは決めていた。


「はい。ぜひ」

「決まりだ。行こう」


 四人はマフィアを追う。

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