28 『賊-属-続 ~ Pirate Cannon ~』
ルーンマギア大陸南東の海上は晴れ渡っていた。
六月二十四日の昼下がり。旅客船『アークトゥルス号』は、陸地を望める海域を走る。
海が陸地によって狭められている海域であり、東西の国々の貿易をつなぐ海峡となっているため、『
マドネル海峡である。
「『
「このマドネル海峡は、貿易船を狙った海賊がよく出る海域らしいです」
「シーレーン――つまり、海上交易の戦略的に重要な場所だからな。当然かもしれない」
サツキとクコはマサミネに修業をつけてもらうため、甲板に向かって歩いていた。
すると、正面から廊下を走ってくる人があった。名前は知らないが、船内ではよく見る顔である。彼は切迫した顔で言った。
「キミたち! 大変だ! 海賊が!」
「海賊ですか?」
クコの表情も引き締まっている。
「ああ! 海賊船が近づいてる! もしかしたら、襲われるかもしれない! おれは今から船長に知らせてくる! キミたちも部屋にこもっていたほうがいい! じゃあ!」
乗客は飛ぶように駆け去った。
「サツキ様」
「うむ。修業してるわけにはいかなくなったな。俺はまず、先生のところへ知らせに行く。クコはマサミネさんに報告を」
「はい」
二手にわかれて、サツキは玄内にこのことを伝えに行き、クコは甲板に行ってマサミネに報告した。
マサミネは知っていたようだった。
「クコくん。それならワタシも知ってる。いや、ワタシが海賊船を発見したものだから、みんなに知らせるよう、この場にいた者に命じたんだ」
「そうでしたか」
「ワタシは戦うつもりだが、クコくんはどうする? 無理はしなくていいんだぞ」
「無理なんてそんな。わたし、戦います!」
「よく言ってくれた。他に戦えそうな者はいるかな?」
「はい。サツキ様はもちろん、わたしの仲間はみんな戦ってくれると思います」
「そいつは心強い。五人もいれば充分だろう。ワタシの見立てでは、あのカメの御仁はただ者ではないしな」
「はい。玄内先生は強いです」
「玄内……やはりあの『万能の天才』玄内さんだったか。姿が変わったとは噂に聞いていたが」
「でも、わたしたちを鍛えてくれるためにいるので、様子を見ながら手を貸してくれる程度だと思います」
「そうか。それならそれもいい。クコくん、他に仲間を呼んできてくれるかい?」
「はい!」
クコが走り出そうとすると、甲板に、サツキたちがやってきていた。
「待たせたな」
「みなさん!」
この場に、アキとエミはいない。ミナトも姿が見えなかった。自由な三人だからどこにいてもおかしくないが、すぐには見つからなかったので、いつもの仲間たちだけを引き連れている。
サツキ、クコ、ルカ、バンジョー、ナズナ、チナミ、玄内、フウサイ、ヒナという九人。それに加えてマサミネ。
全部で十人いる。
しかしフウサイは影に潜み、姿をさらしてはいない。
「おれらも戦うよ」
「やってやるぜ」
「マサミネさんもいるんだから負けねえさ」
そう言って加勢してくれる者が十人弱いた。
玄内はサツキたちに言う。
「おれは今回もおまえらの戦いを見ながら手を貸す。この二ヶ月半、強くなったはずだ。ナズナの歌によるパワーアップなしでもやれるだろう。自分の力を試してみろ」
「はい」
と、フウサイを除いた士衛組の七人が返事をする。マサミネはサツキとクコたちを見て声をかけた。
「行くぞ。海賊船は、あと三分もせずこっちに来る」
突然――。
バァーンと轟音が鳴った。
「大砲か!?」
「なんて大きい音なのよ!」
と、バンジョーとヒナが叫ぶ。
海賊船からの大砲は、うっすらと目に見える。しかし、普通の砲弾とは違うようだった。
サツキは言った。
「船にある大砲じゃない。あれは……」
「人が撃ったものです!」
クコがそう言うが早いか、マサミネは砲弾に向かって走り出していた。
着実に、しかし高速で『アークトゥルス号』へと近づいてくる砲弾は、色が薄く、固形の物体であるという印象ではない。
これが船に届く手前で、マサミネは刀を抜いた。
「《
空間が斬れる。
その空間に吸い込まれるように、砲弾は飛び込む。次の瞬間には、砲弾は『アークトゥルス号』の背後を飛んでいた。
「これが、マサミネさんの魔法か」
「ルカさんにも似た、空間をつなぐ魔法ですね」
「ええ。私は私の所有物か許可を得た物だけを別空間とつないで移動させられる。でも、これは違うわ」
サツキとクコとルカが話していると、『
「ワタシは相手の船に行って少し斬ってくる。こちらは頼んだ」
「わかりました!」
クコが答える。
しかし、すぐに疑問が湧いたように、
「でも、まだ海賊戦までは幾分か距離が……」
ぽつりとつぶやくが、マサミネはすでに新たに空間を斬っていた。
「《風穴斬り》」
そして、斬った空間にマサミネ自身が飛び込んだ。
すると海賊船の上にマサミネが現れた。
船同士は徐々に近づき、海賊たちは『アークトゥルス号』に飛び移ろうと待ち構えていた折である。
マサミネは渦中に飛び込むと船員たちを斬り始めた。
達人の剣とはなるほどこういうものかとサツキが感心し、その技術を目に焼き付けようと息を呑むわずかな間に、敵の数が十人以上減った。
「こいつ! いつの間に来やがった!」
「やつを倒せ!」
「うおー!」
海賊が三人ほど飛びかかるが、残る海賊たちは船同士がぶつかったことで、『アークトゥルス号』に飛び移ってくる。
ラッパ銃のような大砲を持った海賊が言った。
「オレ様はコクヨウワラ。船長、『
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