14 『狂騒チェイサー』
浦浜。
立体遊園地うらはまコスモランド。
キッズファイターエリア。
子供たちが遊ぶためのエリアが主で、今もあふれかえる子供たちと保護者で賑わっている。
ここに、三人の猛者がいた。
サンバイザーをかぶった男女は、足がちぎれんばかりに本気でペダルを回している。その後ろの席で、同じように本気になっている少女がいる。
「アキさん! エミさん! これは、すごいです!」
「でっしょーう?」
と、エミが振り返った。
「クコちゃんもやるね!」
爽やかにアキが親指を立ててみせた。
アキとエミとクコの三人は現在、このキッズファイターエリアのサイクリングモノレールでペダルをこいでいた。
「足がちぎれますっ!」
「その調子だ!」
「頑張れ!」
二人の声援を受け、「はいっ!」とクコが答える。
「それにしてもはしゃいでるね、クコちゃん」
「ボクらも負けてられないや」
「そろそろメリーゴーランドにでも乗って休憩する?」
「それいただきっ」
二人が相談している内容も聞こえないクコは、汗だくになって足を動かしている。
アキが振り返って声をかける。
「クコちゃん、この周回で終わりにしよう」
「次はメリーゴーランドだよ」
「は、はい!」
三人が降りると、管理員のお姉さんから首に手作りっぽいメダルをかけてもらった。
「どうぞ。元気ファイターメダルです」
「ありがとうございます!」
クコはメダルを受け取った。
「わーい! もらっちゃったー!」
「頑張った証だね!」
喜んでいるのはエミとアキだけじゃない。クコも、メダルを見て感慨無量になった。
「わたし、なんだかステップアップした実感があります」
「こうやって称えられるとそう思うよね」
「うんうん。ボクとエミもこうやってステップアップしてきたんだ」
「よし。もっとステップアップしちゃおーう。次行くよ」
「レッツゴー!」
「おー!」
と、クコとエミがアキのかけ声に合わせて手をあげる。三人はメリーゴーランドに向かって走り出した。
そのあと、また別の三人もサイクリングモノレールを降りた。
「すげーな、あいつら」
「てか、おれら……これやる意味なかったんじゃね?」
「オイオイ、疲れたし休もうぜ」
アルブレア王国騎士三人だった。偶然クコを見かけて追いかけてきて、このサイクリングモノレールにも乗ったところ、当たり前だが追いつけずにぐるっと回ってきたのである。
「どうぞ。元気ファイターメダルです」
管理員のお姉さんから首にメダルをかけられ、騎士のうち二人が困ったように眉根を寄せる。
「いや、いらねえし」
「ガキじゃねえしな……まあ、ガキでもねえのに乗ってたのは事実だが」
だが、一人だけ浮かれている騎士もいた。
「オイオイオイ、メダルもらうとかヤバイよな。称えられたぜ?」
「ヤバイの意味がちげーよ」
「喜ぶな、ガキじゃあるまいし」
「オイオイオイオイ、おまえらおれの首にメダルかけてくれたけど、それってヤバイよな? おれだけメダル三つかけてるぜ?」
「ヤバイのはおまえだけで充分だからな。行くぞ」
「メダル返すんじゃねえぞ。てか、目的忘れんなよ」
「オイオイオイオイオイ、置いていくなよぉー」
管理員のお姉さんは笑顔で手を振って見送った。
アキとエミとクコは、メリーゴーランドに乗っている。
――これはなんの修業でしょうか。三半規管でしょうか。バランス感覚のような気がします。……いえ、もしかしたら、馬に乗って戦うための乗馬修業? 騎馬戦のための練習だとしたら、馬術も身につけているわたしには楽勝ですね。
クコはピンと勇ましく眉を上げて口元には得意げな微笑みが浮かんでいるが、アキとエミは純粋に子供のように楽しんでいた。
メリーゴーランドの周りにいる人たちに手まで振っている。
「こら、手なんか振り返すな」
「オイオイ、なに怒ってんだよぉ?」
「遊びじゃねえんだぞ」
「見ろ、『
「オイオイオイ、それってまずいよ」
「だからおまえも真面目にやれ」
「次止まったら行くぞ」
「オイオイオイオイ、止まったぞ」
「ほらっ、いつまで見てんだ。来い」
そんな会話を織りなしていた三人組がメリーゴーランドの前に駆けつけると、係のお姉さんに案内されるまま馬の人形にまたがった。
「よし。準備オッケー」
「オイオイオイオイオイ、これって白馬だぞ? かっこよくないか?」
「あれ? 『
「うおー! もう別のアトラクションに向かってるー」
降りようとする騎士二人が、係のお姉さんに注意される。
「そこのお友だちー! ちゃあんと座っててねー! さあ! しゅっぱーつ!」
音楽と共にメリーゴーランドが回り出す。
「オイオイオイオイオイオイ、おれたち何分回ってればいいんだ?」
「ちくしょー!」
その声に、クコが振り返る。
エミが聞いた。
「どうしたの?」
「いいえ。なにか声がしたような……」
「気にしない気にしない。次はすごいよー!」
アキが次のアトラクションを指差すと、クコは拳を握り顔を輝かせた。
「なんでもござれです! 頑張らせていただきます!」
そんな喜劇の裏側で、本物の真剣な追いかけっこを繰り広げているヒナは町中を爆走していた。
現在、ヒナは士衛組の新たな仲間と間違えられて、アルブレア王国騎士に追われているのだった。
――なんなのよ、あいつら。あ! 船がある! 飛び乗るっきゃない!
ぴょーんと跳ねて、橋から飛び降りる。
「たあああああ!」
「いっけー!」
「逃がすなー!」
追いかける二人の騎士もいっしょになって飛んだ。
「届けぇぇー!」
ヒナは空中で足をばたつかせ、走るように動かし、なんとか屋形船の屋根に着地する。
勢いがついたせいで、おでこを屋根にバチンとぶつけて、「うげ! いてて」と声を出してしまうが、両手を屋根につけて振り返った。
「あいつらは?」
遅れて飛んだ騎士二人組は、橋から遠ざかる船には距離が届かず、それでも空中で両手両足をくるくる回転させて粘る。
「ホラホラホラホラホラホラホラホラホラ! ホラァァ!」
「届かんかァァァァー!」
だが、あと一歩が届かない。
二人がそろって「あぁーれぇー!」と叫んで落下した。
ザブーン! と大きな水しぶきを上げる。
ヒナは真っ赤になったおでこをさすりながら、
「べーっだ!」
あっかんべえを決めて勝ち誇った。
「どんなもんよ!」
しかし、不安がよぎる。
「あれ? でもこの船、どこに行くの……?」
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