13 『虚像トラスト』
浦浜赤レンガ倉庫。
三号館裏。
サツキは、ケイトというアルブレア王国騎士と対面していた。
仲間になりたい、しかし実力を見てからだとケイトは言った。
だから、戦う。
対立でもすれ違いでもない。
この戦いにおいて、サツキの主題はケイトを仲間にできるかどうかでしかなく、相手の思惑が他にあるかは関係なかった。
――ぜひ、その魔法、俺たちの役に立てて欲しい。
性格や仲間との相性はさておき、まずは彼を知ることが先決だった。
サツキとケイトは互いに剣を手に駆け出した。
むろん、サツキは最初から《
――《
目に関する魔法は、無効化できる。
剣と剣がぶつかる。
数度、剣を合わせて、サツキは下がる。
――おそらく、《
やや防御寄りな立ち回りでサツキはケイトと戦う。
ケイトは攻めあぐねているといった顔ではなく、常に余裕な表情をたたえていた。
「フ」
と微笑み、鮮やかな剣捌きで、じりじりとサツキを追い詰めてゆく。
――俺の目は、動体視力も補強され、服の上からでも魔力の流れを透かし見て、それによって筋肉のきしみ、身体の重心までをも読み取るものだ。ケイトさんの剣は、目で追えない高速の剣ってわけじゃない。だが、流れるように美麗で洗練されている。ただこのまま戦っているだけでは、勝てない……!
サツキは距離を取って、帽子を片手に持った。
それを見て、ケイトは穏やかに聞いた。
「降参、という意味ではありませんよね?」
「まさか」
帽子を構え、サツキは手前に投げた。
中途半端に右にずれていて、ケイトにはその意図がわからない。
だが、サツキはもう走り出していた。
距離を詰め、傍らの《
「はぁっ!」
ケイトへと向かって跳んだ。膨らむの《
バネを使って跳躍したように、ロケットみたいな飛び方でケイトに迫った。
「《
「《
練り込んだ魔力を一気に解放する大技。
それに対するは、目による幻惑魔法。
結果は言うまでもない。
ケイトの《
ただ、ケイトもうまく剣を扱い、腕力も備えていたために、サツキの攻撃によって数メートル吹き飛ばされるのみで済んだ。
――やったか……?
サツキはおそるおそるケイトを観察する。
手応えは微妙なところ。しかもしっかり着地している。《
もしこの大技をうまく受けられ、ダメージもないとなれば、もはや手はない。そうなれば、第二ラウンドは武器を介さずに大ダメージを直接お見舞いできる拳技《
「……」
「……」
ケイトは自分の腕を見て、剣を鞘に収める。それから、爽やかに微笑して両手を挙げた。
「参りました。やりますね、サツキさん」
「ありがとうございました」
サツキも刀を鞘に収め、一礼した。
これにケイトもキザに礼をしてみせる。
「さて。では、約束通り」
パチン、とケイトが指を鳴らすと、ルカがハッとしたように目をしばたたかせた。
明後日の方向を向いていたルカが、サツキとケイトを振り返る。
「私は、いったい……」
「ケイトさんの魔法みたいだ。幻覚を見せるものだと思う」
サツキの予測を聞いて、ケイトはもったいぶった言い方で説明する。
「おっしゃる通りですよ。いやあ、サツキさんが本当に目の魔法が通用しない相手だっとは。恐れ入ります。さすがは『
「俺のことを知っているようでしたが、ケイトさんは他のアルブレア王国騎士たちと緊密な間柄にありながら、俺たちに味方しようと?」
「シンプルに考えればそう思いますよね。ただ、ボクは彼らとは立場が少し違う。ボクは父に命じられて、ここに来ています。見込みがあれば協力するよう言われてね」
「では、同行したアルブレア王国騎士たちを裏切るのですか?」
と、ルカが聞く。
「さあ。どうなるのでしょうね。ボクを本当に味方だと思ってくれていたなら、あるいは裏切ったことになるかもしれません」
「……」
ルカは信用ならないとでもいうような目でケイトを見る。
「まあ、ボクは彼らと違うとだけ言っておきましょう。そして、これからは、サツキさんに従いましょう」
ケイトは、大仰なお辞儀をしてみせた。
「ありがとうございます。俺としても、味方になってもらいたい。それでも、クコや仲間との相談はしなければいけません。一度この件を預かって、今夜にもまた会えますか?」
「仰せのままに」
「それでは、今夜九時にここで」
「はい」
そんな約束だけして、ケイトとはそこで別れた。
倉庫から離れるように歩きながら、ルカが言った。
「仲間にしていいの?」
「クコ次第だ。俺としては、あの魔法は強力だし力を貸してもらいたい」
「そう。サツキはやっぱり、警戒心が強いようで、肝心なところでお人好しなのね」
「もしなにかあれば、サポート頼むよ」
ルカは苦笑を浮かべる。
「わかってるわ」
二人は回遊船の乗り場に向かう。
運命の歯車はすでに回り始めている。
人と人との出会いの不思議さは、時に偶然で時にだれかの作為が裏にある。
そして、すべてが歯車のように噛み合って、新たな物語が生み出されて描かれてゆく。
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