23 『おまえらは先に行け!』
謎の独楽の正体は、
「糸だ。糸の上を伝ってる」
サツキが指摘する。
だが、クコには見えない。
「あれらの糸は見えないようになってる。魔法で作られたものだろう」
まるで曲独楽といえよう。いくつもの独楽が敵に襲いかかり、敵の投げた手裏剣を弾く。中にはベーゴマもあった。
そして、もっとも大きな独楽は、動きを止めると人間の姿になった。
「人!?」
驚くクコに、フウアンが説明する。
「『
「それによって、木の間や空中を自在に回転しながら動けるのか」
と、サツキは納得する。
「まさに。また、大小様々な独楽をああやっていくつも放ち、近くを通りかかった相手の魔力を奪ったり、今やってるあれは周囲の音を奪う」
フウテツはキセルを手にしており、その先端で独楽が回っている。パラボラアンテナみたいな動きだった。
「そして、手の上で独楽を回せば周囲の目を引けるわ」
キセルの先端で独楽を回しつつ、手のひらの上で独楽を回す。
その間にも、闇の中から忍者の悲鳴が聞こえた。フウテツによって音を消され視線を奪われた忍者たちがやられたのだろう。
狼が敵に飛びかかる。フウガだろう。《
フウビも《
サツキとクコは剣を舞わせ、ルカはこちらを攻撃しようとする敵を見定めて異空間から取り出した刀剣を《
ナズナは低空飛行しながら《
バンジョーは真っ向勝負で拳を振るった。攻撃を仕掛けてくる者もあったが、徐々にバンジョーのパワフルさに気づき、迂闊には近づかなくなってきた。
玄内はもしもを想定して注意深くサポートしていた。
『
ただ足を止めて戦っているわけではない。
どんどん進む。
そのとき、玄内は見てしまった。
――危ねえ。
舌打ちをする暇もなかった。
「《
声にすると、玄内が消えた。
自身のすぐ背後のことだが、前を向いているバンジョーはまだそのことに気づかない。
「え?」
呆けたフウカの声に、バンジョーが振り返る。
「なんだ? お? おおお! なんでフウカがいるんだ! て、先生がいねえ!」
バンジョーのすぐ後ろには、先に戦場へ来ていたフウアンの妹フウカが立っていたのだ。同時に、玄内がその場からいなくなっていた。
「こっちだ! おまえらは先に行け!」
玄内の声がしたほうへみんなの視線が向けられる。玄内は右方向三十メートル先にいた。
そして、玄内の身体に炎の槍が大量に突き刺さる。
「先……生……」
サツキの足が止まる。
が。
ルカがトンと背中を押した。
「急いで! 先生は大丈夫。たぶん。とにかく、私たちが今すべきは敵の大将を倒すことよ」
「う、うむ」
うなずき、サツキは走り出す。
「せんせーい!」
バンジョーはそう言うだけで、それでも前をゆく仲間たちと共に走った。
「せ、拙者のせいだ。拙者が罠に気づかず踏み入れそうになったから、拙者を助けようとして、代わりに玄内さんが……」
フウカは状況に気づいて泣き出しそうになるが、
「すみません!」
玄内に謝って、バンジョーのすぐ後ろを走った。
「なんでか、拙者はみなさんといっしょに走らないといけない気がするでござる。すみません、玄内さん! すみません、みなさん!」
ルカが説明する。
「先生が使った魔法《
「特殊?」
とサツキは足を止めることなく聞く。
「役割も引き継ぐ。立場ごとそっくり入れ替える魔法なのよ。つまり、先生はフウカが受け持つはずだった仕事をやらなければならなくなった。逆に、フウカは先生の代わりに『最後尾の席』で私たちに同行する必要が出たってこと」
そういえば、とサツキは思い出す。
――玄内先生が亀の姿になった原因も、人助けだった。後先考えず、人のために動けるところ、変わらないんだな。尊敬します。
後ろからルカの解説を聞いたフウカが言った。
「わかったでござる! 拙者、みなさんのお役に立てるよう頑張るでござる!」
「うん。やろう」
「が、がんば、ろう」
チナミとナズナが最初にそう声をかけ、ルカが言う。
「先生は強い。大丈夫。しばらく私たちの手助けができないだけ。あなたは私たちのサポートをよろしくね」
「よろしくお願いします!」
クコもそう続けて、バンジョーがニカッと笑いかけた。
「そういうことだ! 頼むぜ! やってやろうじゃん?」
「は、はい!」
姉のフウアンが苦笑交じりに、
「まったく、しょうがない子ね。お姉ちゃん心配よ。でも、やると決まったらやるだけでしょ。しっかりね」
「う、うん」
とフウカが困ったように笑った。
最後にサツキが口を開く。
「むしろ好都合だ。どうせ先生は見守るだけで助けてくれない。フウカ、いっしょに戦ってくれるか?」
「もちろんでござる!」
「よし。背中は任せた」
「はいでござる」
フウカが答える。
ルカが言った。
「本当に、都合のいいタイミングだったわね。そろそろ抜け出る。敵陣へ侵入するわ」
もう敵も味方も入り乱れた主戦場を抜けるのである。この先に敵の大将がいる屯所があるはずで、そこまで幾ばくもない。
ちらとサツキは目線だけ振り返らせ、
「だな。西か?」
「そう。二度、そちらから敵の往来があった」
と、ルカが答える。
敵の往来は、大将との連絡係によるものだろう。となると、その先に大将がいるのが定石だとルカはみた。
サツキとルカのこの会話は、ただの確認である。敵の大将が待ち構えている場所がどこか、二人の読みが合っているのか。符合したので、サツキは指示を出す。
「さっきの敵の配置から見て、おそらく敵の大将は西の方角にいます。ここからは俺たちを狙う敵が増え、その敵と相対する味方が減るので、みなさん警戒レベルを上げてください」
指令を受けた者に迷いはなく、サツキについて行った。
サツキは、決して口数の多い少年ではない。普段は無口なくらいだが、指令が鮮やかすぎる。性格のせいで意志表現が常に行動にあるような印象を与えるが、意図と行動、因果まで、すべて言葉で表現できる頭があった。それも数学的で論理的な思考回路によるものだろう。
主戦場を抜け、サツキたちは敵の大将の元までまっすぐ進んだ。
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