10 『よく拙者の正体を見破ったニン!』

 バンジョーと玄内は屋敷の出口付近を探していた。


「いねーな。フウサイのヤツ、どこ行った?」


 フウサイどころか、まず人の姿が見えない。それはともかく、バンジョーは完全にフウサイ目当てだった。


「オレにびびって逃げちまったのかー?」


 玄内はひとりごちる。


「ふっ。こいつらには、いい修業になりそうだな」


 一歩引いて見守る玄内だが、バンジョーがなにかを発見した。

 とてとて走って、バンジョーは言った。


「なんかボールがあるぞ」

「気づいたか。が、捕まえるのはちっとばかし難しいぜ」


 後ろから玄内に言われて、「そうなんすか」とバンジョーはボールを観察する。


「おお!? ボールが動いた」


 ボールを追って走るバンジョーであったが、ボールがどんどん転がってゆくので、追いかけるのも必死になってゆく。


「待てぇーい!」


 ボールが跳ねて落下を始めたそのとき、


「うりゃああああァ!」


 バンジョーがヘッドスライティングするように飛び込んだ。


「ようし! タイミングバッチリだぜ!」


 しかし、ボールがバンジョーの手に触れる寸前、そのボールは空中でポンと煙に変わった。


「ぬわぁんだってぇええ!?」


 バンジョーはボールを掴むことができず、そのまま派手に地面を滑っていき、最後は木の幹に頭をゴチンとぶつけた。


「ぐへ」


 ボールが煙になったと思われたが、煙は姿を変えて忍者になり、地面に着地する。


「よく拙者の正体を見破ったニン!」


 腕組みしてバンジョーを見据えるのは、白人の忍者であった。金色の髪と眉の間に額当てをして、全身はバンジョーと近似したオレンジ色の衣装に包まれている。年は二十代前半だろう。背は高く、バンジョーと同じくらいはある。つまり一八五センチほど。

 バンジョーは勢いよく立ち上がり、相手を見て言った。


「やっぱりただのボールじゃねえと思ったぜ! まさか、人とは思わなかったけどよ」

「じゃあなんでわざわざ追いかけてたんだニン!」

「怪しいからに決まってんだろ! それよりおまえ、変なしゃべり方だな」

「拙者、幼少の頃よりメラキアで育ち、忍者に憧れていたんだニン。二十歳になってやっと忍者の国・晴和王国までやってきて、一年かけてこの忍びの里を見つけたニン。でも、語尾に『ニン』をつける拙者のしゃべり方は、他のどの忍者もしてなかったんだニン。でも、今更この口癖は直らないニン。そういうわけだニン!」

「なっはっは! そういう忍者がいてもいいと思うぜ!」

「貴殿は、話がわかるやつだニン。拙者の名前は軽荒楠カール・アレックスふう。フウビはこの里に来てからいただいた名前。気安くフウビと呼んで欲しいニン」

「おう。フウビ。オレはバンジョーだ」

「ちなみに、バンジョーが着ているその服は拙者のお下がりなんだニン」

「へえ。そうなのか、ありがとよ」

「バンジョーとは話が合うニン。このままだとずっと話していそうだニン。でも、今は試練の時間。では、さらばニン! ニンニン! 《だんむしじゅつ》」


 素早く印を結び、姿がまたボール状になった。だが、よく目をこらして見ると、ボールの表面の一部には顔が見える。


「すげえ忍術だ」

「これは魔法だニン」

「なあ、顔が見えるぞ」

「周りが見えたほうが便利なんだニン」

「そりゃそうだ」


 納得しているうちに、ボールはどんどん転がってゆく。


「あ、逃がすか!」


 ボールが跳ねて、


「《撒菱まきびしじゅつ》」


 と言うと。

 追っ手のバンジョーの踏み込む場所に、まきびしが散らされた。


「うおっと! 危ね……いってえええ!」


 うっかりまきびしを踏んでしまい、バンジョーは大声で痛がる。

 その隙に、フウビには逃げられてしまった。


「ちくしょう。今度見つけたら、絶対に捕まえてみせるぜ」


 バンジョーは拳を握りしめ、力強く言い放った。それを聞くのは、呆れ顔の玄内だけだったが。




 屋敷内を探索しているサツキとクコとルカは、廊下を歩いていた。

 クコが横へ目を向ける。


「ここからは、中庭が見えますね」

「うむ」

「あら……?」


 先へと進もうとするサツキの腕を取り、クコが立ち止まる。


「なにかあります」

「どこだ?」

「……」


 ルカも視線を巡らせる。


「あそこです」


 クコが指差す先にあったのは、オレンジ色の球状だった。


「おかしいわね」

「明らかに、自然界にはない物だな」

「はい! あれはなんでしょうか」


 三人が会話をする間にも、オレンジ色の球状はゆっくりと動いた。それをルカは見逃さない。

 そちらへ手のひらを向けた。


「《お取り寄せ》」


 魔法が発動する。

 地面からザァっとまきびしが一面に飛び出した。ルカは自由に持っていっていいと言われた忍者道具から、大量のまきびしをもらっておいたのである。

 まきびしがオレンジ色の球状の行く手を防ぐ。

 だが、オレンジ色の球状は突然、止まったかと思えば姿を変えた。

 人型になった。


「ワオ! ビックリしたニン!」


 その人型は、オレンジ色の忍者服をまとった金髪長身の忍者だった。

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