30 『浮橋陽奈は王都の朝に乗り遅れる』
サツキがナズナの家にいた頃――。
王都のとある宿屋の一室で。
少女のうさ耳がぴくりと跳ねた。
「……ん、んんー!」
と、少女は目をこすって腕を伸ばした。彼女は、サツキと同い年の少女、
ヒナは時計を見て、飛び上がった。
「うわぁっ! なんでぇー! 寝過ごしたー!」
布団を跳ね飛ばして、カランと勢いよく襖を開け放ち、部屋を飛び出した。廊下に出て三歩で、階段から転げ落ちる。
「あわわわわわっ!」
ゴロゴロっと回転して、「ゴン!」と壁に頭を打ち、
「いててぇ」
真っ赤なおでこをさする間もなく、涙目で宿を出る。
「でも急げ!」
寝間着から着替えるのも忘れて、
「うわあああああ!」
全力疾走で大通りを駆け抜ける。
サツキたちが泊まっていた宿へとまっすぐに、脇目も振らず一直線。
ものの数分で到着するが、その宿にはもう、彼らの姿はなかった。「朝方、出て行かれましたよ」とのことである。
「あたしのばかー!」
叫んで、うなだれて、呼吸を整える。
冷静になって考えてつぶやいた。
「……確か、
顔を上げて前を向き、「よし」と自分の宿に戻る。
宿ではちゃっちゃと支度を済ませる。
自分の目的を果たすため、ヒナはサツキたちを待ち伏せるべく、
ただ、その前に、昼食をとったあとすぐに幼馴染みの家に寄ってみた。
しかし、その幼馴染みはちょうど今日旅立ったとのことで、結局出会うこともできなかった。
家を出て、ドアを閉め、立ち止まる。
「もう、なんでこう間が悪いのよ」
ため息をつきつきぼやいた。
「本当に残念です」
「まったくよ」
「はあ」
隣で聞こえるため息に、ヒナは疑問を覚えて横へ顔を向ける。さっきからヒナといっしょになってぼやいていた少女に言った。
「あんただれ?」
「え」
少女は、ヒナよりも一つ年下くらいだろうか。
袴姿に長い黒髪、身長は一五〇センチ弱で、よく整った綺麗な顔をしていた。深窓の令嬢を思わせる気品がある。
「あかんかったか。じゃあ行こか」
声をかけたのは、仮面のようなメガネをかけた青年だった。
――怪しい人ね。
青年に言われるまま、少女は彼の一歩後ろについて歩く。
「はい」
「人の縁は不思議なもんや。必要なときに会える。気を落とさんことやな」
ヒナはそんな二人の背中を見送り、腕組みする。
「ま、あいつの言ってることも一理あるわね。あたしだって、そのうち会えるわ」
ひとりごち、ヒナは王都の町を歩き出した。
「待ってなさい、
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