23 『玄内は魔法を没収する』

「やめときな。あんたらじゃあ勝てねえぜ」


 バッと、サツキが振り返る。

 そこには、カメがいた。

 二足歩行をする、着物姿のカメである。

 チナミと歩いているときにすれ違ったカメに間違いなかった。


「玄内さんっ!」

「お久しぶりです!」

「お元気ですか?」

「探してたんですよー」


 アキとエミがぱあっと顔を輝かせてカメに挨拶する。


 ――玄内さん!? つまり、俺とルカが探してた、玄内先生なのか?


 サツキは驚嘆してしまった。

 まさか、自分が探していたのが、カメの姿をした人だとは思わなかった。

 玄内と呼ばれたカメはクールに言う。


「おう。アキ、エミ。久しぶりじゃねえか。一年は経ってなかったか」

「はい。ギリギリ」


 しゃべるカメを前に、フンベルトが固まっている。ただ警戒は解いていない。


「か、カメのくせに……! そ、そうだ。《とうフィルター》。よ、よし、甲羅にはなにも隠してない。いくぞ!」


 サツキは引っかかった。


 ――そうだ……。玄内先生、さっき「あんたら」って言った。つまり、敵はほかにも……。


 そう思ったとき、玄内は極めて素早い動作で、背中の甲羅から長い銃を取り出し、刹那のうちに二発撃った。

 玄内が銃を撃つのとフンベルトが叫ぶのが同時だった。


「今だセルニオ!」

「遅せえよ。しばらく寝ててくれや。こいつらはこんなおれの友人でな。手出しはさせらんねえんだ」


 玄内が使ったのは、マスケット銃。ゲベール銃と言われる銃の見た目であるが、性能が異なった。いや、弾丸から違った。魔力を練って固めた弾丸、すなわち魔法そのものである。

 撃たれたのは、正面の騎士『リンクス』フンベルトと右斜め後方にいたもう一人の騎士『りゅう』セルニオ。

 偏照競匂ヘンツェル・セルニオは、サツキが世界樹ノ森で脳天に裏拳を叩き気絶させ、なんとか逃げた相手である。魔法は、地面に潜るものだった。

 フンベルトはドスンと音を立てて倒れたが、セルニオは下半身が地面に埋まった状態であった。

 玄内が銃を撃った順序は、フンベルトが先で、セルニオが後である。

 フンベルトが倒れてすぐ、マスケット銃の銃口が向いた方角へサツキとナズナが顔を向け、それを確認したのである。


「もうひとり、いた……」


 ナズナがつぶやく。

 玄内がアキとエミに目を向けた。


「おまえら。おれを探してたんだって?」

「はい」

「玄内さん、アキのカメラ直してください」

「ボクのカメラが壊れちゃって」

「どれ、見せてみろ」


 アキがカメラを見せると、少し観察し、甲羅から道具を取り出して器用にカチャカチャといじってものの一分とせずにアキに渡した。


「直ったぜ」

「ありがとうございます!」

「アタシからもありがとうございます!」


 二人からお礼を言われても、玄内は「おう」しか言わない。


「あと、これ《ちりあつめガス》です」

「お土産にどうぞ」

「ああ。こいつは便利な魔法道具だよな。最近出たばかりの人気商品だ」

「はい。ボクらは出会いの欠片を集めたいなって話してて」

「それでみんなと出会えてうれしいです」

「なに言ってんだかな、相変わらず。おもしろいやつらだぜ」


 二人のお土産を受け取り、玄内はサツキに目を向けた。


「おまえさんは?」

「あ……」


 うまく言葉が出ないサツキに、玄内は重ねて問うた。


「大丈夫かい?」

「は、はい。大丈夫です」

「そうか」


 ここに、ルカが駆けつけてきた。アキとエミはすでに気づいていたらしく、手を振って「ルカちゃーん」と名前を呼んでいる。

 カメ、すなわち玄内を一瞥すると、ルカはサツキに駆け寄って聞いた。


「サツキ。大丈夫?」

「うむ。それより……」


 サツキが玄内のことを説明しようとしたところで、玄内のほうから声がかかった。


「よう。だれかと思えば、ルカじゃねえか」

「え? この声……」


 ルカは慌てて振り返り、カメを見下ろす。身長は一メートルもない、二足歩行の着物姿のカメという、世にも不思議な生き物を目に留める。


「もしかして、玄内先生……ですか?」

「おれ以外にだれがいる。……て、おまえに最後に会ったのは何年前だったかね。カメの姿になってからは知らねえか」

「はい。全然……」


 ここまで言って、ルカは挨拶を忘れていたことを思い出してお辞儀した。


「お久しぶりです。私、サツキといっしょに先生を探していました」

「ほう。事情がありそうだな」

「いろいろと」

「だが、まずはやることがある」


 玄内はセルニオのほうへと向かって歩いてゆく。

 セルニオにフンベルト、オーラフ騎士団長が倒れている。それを今になって気づいたルカがサツキに聞いた。


「みんな、先生が……?」

「おれがやったのは雑魚二人だ。本丸はおれじゃねえさ」


 玄内の言葉にサツキはうなずき、


「うむ。オーラフ騎士団長は、ナズナとアキさんとエミさんの力を借りて、なんとか……」

「よかった。すごいわ、本当に」

「でも、あの人たちはどうなって……」


 玄内はマスケット銃を甲羅にしまって、歩きながらサツキの疑問に答える。


「安心しろ、死んじゃいねえ。寝てるだけさ」


 そういう魔法を込めた弾丸だった。


「さてと」


 地面に半身が沈むように埋まった状態でぐっすり眠っている騎士、セルニオ。彼の目の前に来て、玄内は魔法を声に出す。


「《魔法管理者マジックキーパー》」


 玄内の手には、突然、鍵が浮かび上がるように出現した。金色の鍵。その鍵をセルニオの首の後ろに突き刺す。


「その魔法、没収だ」


 鍵をかけるようにひねる。

 それから鍵を抜いた。


「なるほど。《潜伏沈下ハイドアンドシンク》か。地面に沈み隠れることができる。また移動も可能。特に面倒な条件はないみてえだな。地中や水中では、頭まで潜ると呼吸ができなくなるってのは想定内。はん。使える魔法だ。術者しか潜伏対象じゃないってのがもったいないが」

「これって、まさか……」


 サツキは目を丸くした。

 玄内はそんなサツキを流し目で見やり、ニヤリとした。


「察しがいいじゃねえか」

「セルニオという騎士の魔法を、もらったんですか」


 没収、という表現から、そうとしか考えられない。しかも、情報まで得られている。


「ああ。そのまさかだ。おれの魔法《魔法管理者マジックキーパー》は、魔法名を知るか魔法を使う姿を一度でも見るか、いずれかの条件を満たせば、その魔法の使い手の首に鍵をかけることで、魔法を管理できる。つまり、没収できるわけだ。当然、没収した魔法は《かんしゃけんげん》によりおれ自身も実行可能だ。返すこともできるが、返す必要もねえ。ついでに、別の人間に、おれの管理する魔法を《管理者権限》によって付与することもできる。また、付与するとおれ自身は使えなくなる」

「玄内先生が『万能の天才』と言われるゆえんの一つが、この魔法よ」


 ルカが言う通り、玄内の魔法を知る者はこれによってなんでもできる彼を『万能の天才』と呼んだ。魔法以外にも通じているため、もちろんそれ以外にも天才と言われる理由はいくらでもあるのである。


「こいつのももらっておくか」


 続けて、玄内はフンベルトの首にも鍵を差し込み、


「その魔法、没収だ」


魔法管理者マジックキーパー》によってフンベルトの魔法も没収した。


「《透過フィルター》。大方の予想通り、フィルターの枚数に応じて、障害物を透過して見ることができるってものか。物体ごとに透過して見える。複数のパーツで構成される物体でも、一体となっていれば形状を問わず透過することも可能。透過枚数を増やしたい場合は、口でフィルターの枚数を唱える。透過した物体は、ガラスのように透けた形で見える。透過は時間制で、十秒ほど。使えるな」


 これほどの作業をやっていながら、玄内は飄々としている。使えるとは言っても、二人の騎士の魔法を大した物でもないように言っているほどである。

 玄内はオーラフ騎士団長の元まで歩み寄り、振り返ってサツキたちに聞いた。


「こいつの魔法名はなんだ?」

「《ブロッケージ・パス》と言っていました」


 サツキが答えると、玄内は「ありがとな。了解だ」と言って、再び鍵を出した。

 首の後ろに鍵を差し込み、ひねる。


「その魔法、没収だ」


 玄内はニヤリとした。


「こいつのが一番使えそうだぜ。《ブロッケージ・パス》。物体をすり抜けられる。人間をすり抜けることはできない。使い方次第じゃあかなり強力だな」

「みなさーん!」


 声がしたほうへサツキが顔を向ける。

 ルカやナズナ、アキとエミもそちらへ向いた。

 クコが走って来ているところだった。


「サツキ様! ご無事でなによりです!」


 息を切らせて駆け寄り、サツキの手を取る。


「うむ。クコも無事でよかった」

「ルカさんも、アキさんとエミさんもいらしたんですね。あら? もしかして、先程の……」

「おう」


 返事をしたのは、玄内であった。


「じっと待ってろって言ったのに、とんだおてんば娘だな」


 へっと笑う玄内に、クコは照れたように頬をかき、ぺこりと頭を下げた。


「すみません。ご厚意によって目をかけてくださったのに。わたし、あのあとだれかの叫び声を聞いて、それがサツキ様やいとこのナズナさんだったらって思ったら、いても立ってもいられなくなってしまって」

「いいんじゃねえか、自分で決めたことなら。おれは責任持てねえが、だれかのために考える前に動けるのは、欠点でもあり美点でもある」


 サツキはクコと玄内の会話を聞いて、また驚かされる。


「クコ。玄内先生と、いつの間に知り合ってたんだ」

「え? 玄内先生?」


 わかってない顔のクコであったが、ここで、ナズナがぽつりとつぶやく。


「クコ……ちゃん?」


 いまだにぺたんと座ったまま動けなかったナズナが、クコのことを見上げている。クコのほうは、サツキの後ろにいたナズナにさっきまで気づいていなかったが、その声でやっとナズナの姿を発見した。


「ナズナさん!」

「クコちゃん……」


 ぱたっと、ナズナの背中の翼が羽ばたき、クコの胸に飛び込んだ。


「クコちゃん!」

「久しぶりですね、ナズナさん」

「クコちゃん、無事でよかったぁ、怖かったよぉー」


 ナズナはクコに抱きつき、クコの胸で泣きながら気持ちを吐露した。

 優しい眼差しでいとこの女の子を抱きしめ、クコはナズナの頭をなでる。


「よしよし」


 さっきは夢中でサツキの元へと駆けつけたから、クコも周囲の状態になど注意を払っていなかった。だが、今になって状況を把握してきて、ナズナにそっと言った。


「がんばって戦ってくれたんですね。もう大丈夫ですよ。ありがとうございます、ナズナさん」

「うん……うん……!」


 アキとエミは二人そろって腰に手を当て、笑顔でクコとナズナを見守っていた。


「よかったよかった」

「めでたしめでたし」


 クコとナズナの再会を、サツキも温かい気持ちで眺めていた。

 そんなサツキを見返り、ナズナは涙を浮かべて言った。


「サツキさんに、勇気をあげたかったから。いっしょに、戦ってくれて……ありがとう、ございます」

「こちらこそ。ありがとう、ナズナ」

「はい」


 ナズナは涙を拭って微笑む。


 ――クコちゃんに、笑顔で会いたいって思ってたのに……泣いちゃった。でも……サツキさんと戦えて、クコちゃんに会えて、本当によかったよ……。


 そこへ。

 今度は、また別の二人がやってきた。


「おーい! 王都見廻組の到着だー!」


 片方は、王都見廻組組長のおおうつひろであった。もう一人は、くノ一のような身のこなしのチナミである。


「あ、ヒロキさんも来た!」

「チナミちゃんもいっしょだぁ!」


 アキとエミは喜んでいる。

 ヒロキは全体を見回し、うんとうなずいた。


「みなさん、素晴らしい活躍だったようだね。王都見廻組組長として礼を言わせて欲しい。ありがとう。ナズナくんもいたのか。ありがとう」


 綺麗で力強い礼をする『おうばんにん』ヒロキに、サツキたちも頭を下げ返す。ナズナも既知の相手だけに「いいえ」と安心した顔で答えた。

 そこにチナミも言った。


「ただいま戻りました。サツキさん、お疲れさまでした。ナズナは……頑張ったみたいだね」


 ナズナは親友の顔を確認する。


「おかえり」

「うん」


 また、チナミはナズナが抱きついている相手が、クコだと直感する。


 ――クコさんと会えたんだ。なんてタイミングだろう。


 チナミがサツキを見上げると、


「おかえり、チナミ。こちらはなんとか勝てたよ」

「はい。お疲れさまでした」

「チナミもお疲れさま」


 サツキとチナミが話す横では、アキとエミがヒロキに訴える。


「ヒロキさん、ちょうどよかった! ボクたちの友だちをいじめる悪い人たちを捕まえてください」

「ここに倒れてる三人ですよ」

「うん。アキくんとエミくんは相変わらず元気がいいなァ。助かるよ」


 それから、エミはチナミに声をかけた。


「ぺんぎんぼうやのお面、買えたよ。ありがとう、チナミちゃん!」

「お面のおかげで、エミにはもう一人同志もできたんだ」


 アキとエミの笑顔に、チナミははにかみ答えた。


「よかったです」


 ヒロキはクコを見て、


「クコくんもこんなところにいたのか。よかったよかった」

「はい。先程はお話を聞いてくださって、ありがとうございました」


 クコはナズナの頭を撫でてやりながらお礼を述べた。

 そして、ヒロキが玄内の前に立ち、会釈した。


「玄内さん、こんなところにいましたか」

「おう。ヒロキ」

「では、魔法のほうは心配いりませんね」

「没収しておいたぜ」


 ヒロキは懐から回覧板を取り出して確認する。うんとうなずいて、


「どうやら、人斬りのほうも片がついたそうです。何者かが人斬りを退治し、犯人も自供したそうで。そちらも魔法を没収してくれますか」

「任せておけ」


 あの回覧板は、魔法道具の可能性もある。タイムリーに報告を受け取ることができるものとみた。だが、サツキはそれには触れず、ヒロキに別のことを聞いた。


「あの。お二人は知り合いですか?」

「旧知の仲だよ。わしは玄内さんに協力してもらうことも多くてね。特に、事件を起こした厄介な魔法の使い手からは、魔法を没収してもらうようにしているんだ。わしは、事件は未然に防ぐよう動くべきだと思ってるからね」

「同感です」


 と、チナミがヒロキに同意する。

 玄内が続きを引き取る。


「で、おれも犯罪者から魔法をもらえる代わりに、たまに見廻組として使えそうな魔法はヒロキに与えるようにしてる。互恵関係ってやつだな」

「なるほど」


 王都の一般市民が知らないところで、そんなことが行われていたらしい。ヒロキが『王都の番人』たる土台を、玄内も支えていたということだ。


「ま、ヒロキに関しちゃあ、おれの魔法がなくてもその辺の達人にも負けやしねえだろうが」

「あっはっは。わしは全盛期を過ぎてるからなァ。衰えない玄内さんにはわからないでしょうが、こう見えて常に鍛錬の日々です」


 すると、ここで、オーラフ騎士団長が目を覚ました。


「ん……」


 まだ身体を起こしかけたところ。

 そこにヒロキが近寄り、オーラフの目に手をあてる。目隠しするような手の動きをされ、オーラフはまた、バタンと背中から倒れた。目を閉じている。


「もう少し寝ててくれたまえ。《こんすいブラインド》。玄内さんにもらった魔法だよ」


 あまりにあっさりと眠らせてしまったことに、サツキばかりでなくルカやチナミも驚いていた。

 ヒロキはパンと柏手を打った。


「さあ! 一旦すべての事件が終わりました。疫病に関しては少しずつ経過を見るしかありませんが、これでひとまずお開きということで」

「やったー!」

「解決だね!」

「わーっしょい!」

「わーっしょい!」


 アキとエミが独特の喜びの舞いを踊ってみせると、クコも「わーっしょい」と手を叩き、事件解決を祝った。

 エミがくるっとターンして止まったところで、サツキの羽織に目を留める。


「あれ? サツキくん、羽織が切れちゃってる」

「血もついてるじゃないか。大変だ。じゃあ帽子で直そう」

「直す……?」


 サツキはアキの言う意味がわからずぽかんとしていると、アキがサツキの帽子をひょいと取って、エミがサツキの背中に回って、


「はい。脱いで」

「あ、はい」


 と、サツキは袖を脱いでエミに羽織を取ってもらった。

 エミはそれを帽子に入れる。

 そして、取る。

 すると羽織は綺麗さっぱり直っていた。


「うん! よし!」

「完璧だね!」


 満足そうなエミとアキに、サツキは疑問を唱えた。


「《どうぼうざくら》の効果ですか?」

「そうだよ。アタシが今やったのは忘れるの《ぼう》。一日以内ならどの状態まででも忘れられるから、物を直すのにピッタリなの!」

「なんでも直すといいよ。人体とか動物は無理だけどね」


 二人がビッと親指を立ててみせる。

 サツキは感心した。


「わかりました。ありがとうございます」

「て、サツキくん着物も切れてるじゃないか」

「はい、また脱いで」


 また背中に回り込むエミのほうへと身体を向けて、サツキは頬を赤らめながら言う。


「大丈夫です。公然の場では脱げないので、部屋に戻ってからにします」

「そっか」

「忘れずにね」


 あっさりしているというか、しつこさがないのがこの二人の良さでもある。サツキは苦笑して「はい」とうなずいた。


「サツキ様。事件も幕を引いて、お着物も直したら安心ですね」

「まあ、危険は去った」


 だが、サツキは引っかかっている。


 ――でも、怪盗事件はまだなんだ。思えば、王都見廻組はずっと、怪盗事件には本気じゃなかった。あえて見逃していたようでさえあった。その意味は、やはり……。


 ルカがそんなサツキの顔を横目に見て、


「どうしたの?」

「いや。怪盗事件はまだ終わってないと思っていた。だが、もしかしたらこれも終わったのかもしれない」

「それって、どういう……」


 言いかけて、クコがサツキとルカの会話に割って入った。


「サツキ様、ルカさん。玄内先生に、お話ししましょう!」

「そうだったな。でも、玄内先生はこのあとも人斬りを相手に魔法を没収する仕事がある」

「そうね。あとでうかがうことができないか、聞いてみるのがいいと思うわ」


 玄内は、話している三人の前にやってくる。


「聞こえたぜ。おれに話があるみたいだな。だが、おれにはまだ仕事がある。明日、おれの家に来てくれや。明日おれがいるのはここだ」


 と、玄内は甲羅の中から一枚の紙を取り出した。

 住所と簡単な地図が描かれている。

 ルカが代表してそれを受け取り、「ありがとうございます」と礼を述べた。

 ヒロキが言った。


「ではお開きということで、みんな気をつけて帰ってくれ。あ、サツキくん。キミの心配をして駆け回っていたバンジョーくんにも、お礼を言うといいよ」


 サツキが「バンジョーが……」とつぶやくと、


「まだ探すと言ってきかなかったが、今宵は物騒だから宿に帰ってもらったんだ。いい心意気を持った青年じゃないか」

「はい」

「うん」


 とヒロキは大きくうなずく。

 クコがナズナに言った。


「わたしのことはサツキ様から聞いているみたいですが、また明日うかがいますね」

「うん、待ってるね」

「おやすみなさい、ナズナさん」

「おやすみ、クコちゃん」


 クコとナズナが互いにそう言って、サツキもヒロキや玄内、チナミにも挨拶して宿に帰ることになった。アキとエミも途中までいっしょだったが、


「じゃあここで。三人とも、今日はゆっくり休むんだよ!」

「あったかくして寝てね! ごきげんよーう!」


 夜中になるのに元気な二人は、軽快に王都の町へと消えて行った。

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