第10話 無限のマンホール(2)
夜中に家を抜け出すと、待ち合わせ場所には武雄が居る。
「どうするの?まさか朝まで歩くの?」
未成年だ、下手すると警察に通報されるかもしれない
「まずは舞子さんの目撃地点まで行こう、長くても
数時間で巡回は終わる」
数時間は拘束されるのか。
それになんで舞子だけ、さん付けなのか不満に感じた。
「私は呼び捨てなの?」
「玲子さん・・・と呼べばいいのか」
真顔で言われたので寒気がする
「さんはいらない」
舞子が見たという場所のマンホールは閉まっている。
30分程度、学校近くの道を歩いても
蓋があいている事はなかった。
「マンホールに落ちた可能性があるの?」
私は武雄に聞いてみると、
「いやそれは考えてないが、穴に居るものかもしれない
霊障ではない、別の現象だろう」
「現象?幽霊以外の?」
私は人の霊や古来からある自然の霊障しか知らない。
自然の霊障は殺生石や土地に同化した霊の呪いだ。
霊道も同じだろう。
「そんなものにどう対応する気なの?」
「自然の理(ことわり)がある、ルールを利用して封印する」
彼は自信に満ちている、あわてるなんて事は無いのだろう。
しばらく歩くと、それは居た。
たしかにマンホールの蓋の横に『黒い何か』がある
「あれなの?」
私は穴に見えたが、穴ではない、マンホールとは無関係なモノだ。
『なにか』はじわりと動くと、私たちの足下に向けて走り寄る。
武雄は私の手首と肩を掴むと
「入るぞ」と引っ張る、聞いてない!
穴は私たちを飲み込む、真っ暗で自分の手すら見えない
なにも感じられない世界で、武雄の手の感触が残る。
「無限か、たぶんひずみだろう、意識はないが
喪失感を埋める本能はあるらしい」
武雄の声だけは聞こえるが、彼の顔は見えない。
「本能?生物なの?」
武雄が手を離したら恐怖で叫んでいる。
「生き物ではなくて、空間にできた傷だろうな
傷を満たすために人を閉じ込めたかもしれない」
武雄は解決策を知っているらしい
「傷は治せばいい、そのための神仏のお言葉だ、
真言を唱えるので、声合わせをしてくれ」
両手で顔を触られる、吐息がかかる。
まさか武雄の顔が目の前にあるのか
「ないおうきょう、まゆかえのさとへ、いとしかぬ」
慣れ親しんだ真言が唱えられる、私も唱和を開始する
ぐっと重力が発生する、目を開くと武雄の顔を直視した
あまりの近さに驚くと同時に、顔を両手で持たれていた。
目だけで周囲を確認すると、登下校の道だ。
「戻れたわよ」じゃっかん怒って言うと、彼は手を離した。
周囲には数人の生徒が居るので助ける。
舞子は「夜中にデートしたのね」
ニコニコしながら私を見ている。
「デートじゃなくて、生徒を助けたの」
助けられた生徒は、すぐに気を失ったのか記憶は無かった。
行方不明の生徒は、普通に家出したと解釈された。
下校すると門の所に武雄が居る、また事件かと思うと
「昨日の件で、なにかおごるよ」
舞子が後ろから「やっぱりデートじゃない」とからかわれた。
私は顔に触られた手の感触が蘇る。
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