誰も知らないプロローグ
「友達にこんなもの、向けたくなかったな……」
少年の暗い呟きも、清められて決意へと燃え上がる。意を決した少年の顔は勇者へと変わり、高らかに口上を三下り半として叩きつけた。
「穢れた魂を
――『それ』は、この世界のありとあらゆる美しいものを束ねたかのように、燦然と光り輝いていた。
否、この世界のものではない。
こことはかけ離れた幻想郷――異世界が鍛造した、生存と肯定の象徴。希望の篝火。柄すら取り巻いて余りある光明をその身にまとった刀身は、夜の闇など意に介さないほどにまばゆい。見た者の内に秘めたる罪悪感すらも煌々と照らし出さんばかりだった。
「咎背負う月よ、懺悔の時だ! 清く白む地平線へ、とくと
森羅万象より集められた生命エネルギーによって、掲げられた聖剣が精彩で富む。
前後に開かれていた足にグッと体重がかかり、重心が下がる……それが反撃の狼煙だった。
「黎明讃歌ッ!!」
腰溜めに構えられる聖剣。
翻る光の帯が、目に焼き付いた。
「ディールクルム――ッ!!」
雄々しき咆哮と共に、聖剣が振り抜かれる。直撃すればすべての汚濁を消し飛ばす浄化の奔流が、まさしく光速で脇を通過し、傍観の月へと向けて駆け上がる……はずだった。
だが、聖剣の担い手にも予想外の出来事が起こった。
「えっ――!?」
相手の足がもつれて、聖剣の射線上に転がり出る。
逸らそうとしても、もう遅い。
「グアアアアアアアアーッ!!」
しかして荒ぶる黄金が、滂沱と化して瞬きの間に殺到する。激流に呑まれて尚もかき消されなかった断末魔が、尾を引いて轟いていた。
……ディールクルムの一撃は加減されていた。元より全力を発揮できない現状では、本来の十分の一も火力は出ていない。だとしても、人間相手には十分な暴力となる。
直撃したのは胸元から顎下、要は強烈なアッパーカットを食らった相手はきりもみ回転をしながら、ぐしゃりと五体を投げ出した状態で着地した。
「う、嘘だろ……オイ! 大丈夫か!?」
聖剣を非常用ライト代わりに周囲を照らしながら、担い手が駆け寄る。肩を揺さぶるが、白目を剥いた相手はぴくりともしない。慌てて呼吸と心拍を確認して無事を知ったところで、聖剣の餌食となった少年――
そして、
前世の記憶も目を覚ました。
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