バランス

王生らてぃ

本文

 真理ちゃんは背が高くて、髪の毛が短い。

 わたしは背が低くて、髪が長い。

 でも小さい頃は逆だった。わたしのほうがずっと背が高かったし、わたしは髪の毛を短くしていた。真理ちゃんは小さくて、ずっとロングヘアだった。高校に上がったばかり位のころに身長を追い抜かされた。わたしは高校デビュー、イメチェンとして髪を伸ばし始めたけれど、真理ちゃんは逆に髪の毛をバッサリと切ってしまった。



「さやちゃん、いっしょに帰ろうよ」



 真理ちゃんとわたしは別々の高校に通っているのに、真理ちゃんはいつもわたしのことを、わざわざ校門まで迎えに来る。みんなセーラー服なのに、ひとりだけブレザー。すごく目立っているけれど、いつものことなのでもう慣れた。



「ねえ、週末どこかに遊びに行かない?」

「いいね。どこに行こうか」

「さやちゃんの好きなところでいいよ。この間は、わたしが行きたいところに行ったから」



 お互いの家を行き来するのは日常茶飯事だ。



「ほんと、あなたたちは仲が良いわね~」

「ね、姉妹みたい」



 お互いのお母さんからも、からかい半分にそういわれるくらい、わたしたちはずっと一緒にいる。

 わたしは真理ちゃんのことが好きだったし、きっと真理ちゃんもそうだろう。






 ある日、わたしは交通事故に遭った。信号無視の車にはねられたのだ。

 幸い命に別状はなかったけれど、脚の骨を折ってしまった。治るまではしばらくギプスで生活しなければならない。松葉杖をついて学校まで行くのはかなり大変だった。



「さやちゃん、だいじょうぶ?」



 真理ちゃんはいつもわたしに気を遣ってくれた。登下校の時も手助けをしてくれたし、週末もいつも家まで来てくれた。そのおかげか、怪我は比較的早くに治り、わたしは元通りの生活を取り戻した。



「真理ちゃん、ありがとう。真理ちゃんのおかげだよ」

「ううん。さやちゃんとわたし、いつもふたりでひとりだもん。さやちゃんがつらい時には、わたしが半分肩代わりしてあげたいの」






 その数日後だった。今度は真理ちゃんが、交通事故に遭ったらしい。



「信号無視したんですって」



 お母さんが眉をひそめてため息をついた。



「そうなんだ。危ない車がいっぱい――」

「違うのよ。無視をしたのは真理ちゃんのほう」

「え?」

「赤信号だったのに、ばっと車の前に飛び込んだんですって」



 わたしは入院中の真理ちゃんの所へお見舞いに行った。



「さやちゃん。ありがとう、来てくれたんだ」

「どうして、車道に飛び込んだりなんか……」

「言ったでしょ。さやちゃんのつらさ、苦しさ、痛みを、わたしが肩代わりしてあげたいって。さやちゃんがつらい思いをいっぱいした分、わたしも、つらい思いをしなくちゃいけないの。だって、小さい時からずっとそうだったでしょ?」

「……、」

「だから、ね? 今度はわたしを助けてよ。髪形も身長もいつも正反対。いつも遊びに誘うのはわたしの方。毎日学校まで迎えに行ってあげるのもわたしだけ。だから、今度はさやちゃんが、わたしのお世話してよ。そうしたら、ずっと一緒にいられるでしょ? 当然だよね、わたしたち、ずっとずっと、そうだったんだから――」



 真理ちゃんの顔には、うつろな笑顔が浮かんでいた。



「うん。わかってる……毎日お見舞いするし、毎日学校まで送り迎えしてあげるから」

「ありがとう。さやちゃん、大好きよ」

「わたしも。……傷、痛い?」

「痛いよ……だって、さやちゃんも痛かったでしょ?」

「痛かった」

「だから痛いよ」



 真理ちゃんは嬉しそうに笑った。

 わたしは思わず泣いた。

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