嫌いなあいつとお笑いとか無理だろう!?
香澄るか
嫌いなあいつとお笑いとか無理だろう!?
いてて。
食べすぎたか?
俺、
佐倉さんというのは、肩までの黒髪でめちゃくちゃかわいい、俺が絶賛命懸けで片想い中の
仲間たちが言うには、佐倉さんは村山が気になっているとかいないとか。信じてるわけでないが、俺は目の前の光景にイラつきながら、保健室へ入る。
「佐倉さん、何の話してんの?」
ふたり同時にこちらを見たが、あえて、佐倉さんにだけ話しかける。村山のやつはスルーだ。
「あ、篠原くん」
佐倉さんが俺に微笑む。
はい、今日は最高日決定。笑顔国宝女神級!!
俺は今なら握力日本記録くらい出せそうなほど拳をかたく握る。
「楽しそうだったけど、どうしたの?」
「昨日のお笑い番組について村山くんと話してたの! 面白かったよねって!」
「へえー。それなら俺も見たよ! 佐倉さんてお笑い好きなんだね! 知らなかった!」
見たのは本当。知らないのは嘘。
俺はある日たまたま彼女がお笑い好きだと知って以来、多少無理してもお笑い番組はチェックしている。
俺はしれっと涼しい顔の面を被る。
「お笑い芸人さんって、面白いし、演技上手いひと多いんだよねー! 好き!」
「わかる」
村山がぽんと一言を発した。
瞬時に、佐倉さんの顔つきが変わる。
くそぅ村山健吾……!!
わかるだとぉ!?
たった今、俺がこの世で一番嫌いなワードランキング一位になったぞ!!
それより、やばい。どうする!?
佐倉さんの視界に俺が映るようにするには……
「じっ、実は、俺と村山でお笑い芸人目指すつもりなんだ!!」
気づけば口から盛大な嘘をついていた。
「えっ?」
「はっ?」
佐倉さんと村山の声が重なる。
「誰と誰が……?」
「俺とこいつが」
訊ねたのは村山だが、お前が、とはわざと言わなかった。
佐倉さんにだけ笑ってみせる。
佐倉さんは口に手を当てキラキラした目で俺たちをみつめる。
「えー!? そうなの!? 頑張って!!」
「ありがとう」
我ながらよくスラスラと嘘がつけたもんだと感心する。人はピンチな状況に立たされるとなんだってやるのか? という兼ねてからのふんわりした疑問を自ら実証した。
「本当に、頑張ってね! 応援してる!」
「はは。ありがとう佐倉さん」
佐倉さんが保健室の扉を閉めて足音がたしかに遠のいたのを確認するまで、俺は笑顔を貼り付け続けた。
さて、ここからが重要なわけだが。
今から村山が、絶対に嘘をついた理由を俺に訊ねてくる。いよいよ 男同士の勝負というわけだ。
――はず、だったが、村山がこちらを向いたかと思ったら、けろっとした顔で信じられない言葉を発した。
「知らなかった。篠原、お前……僕とお笑いしたかったんだな」
「……ん?」
「僕はてっきり嫌われてるんだと思ってた……。そっかー、僕らすでに友達だったのか。嬉しい」
「んんー!?」
あれれー?? おかしいよねー!?
名探偵コ○ンもビックリの展開だ。
そこは、何勝手なこと言ってんだこの野郎! 二度と僕に話しかけんじゃねぇ!! ドアばーん!! だろう!? 何、素直さ100%の顔しちゃってんの!? お前実はいい子なん!?
「どうする? 手始めに今度の文化祭でコントでもしてみちゃう?」
「あははーしない!!」
「え?」
こうなったらぶっちゃけて、喧嘩上等じゃあ!
と意気込んだのも束の間。
ダダダダダダダダッ!!
すごい勢いで足音が近づいてきたかと思ったら、まさかの吹っ飛ばす勢いで、俺が期待したドアばーん!! をしながら担任が姿を現した。
「聞いたぞ!! お前たち、お笑い芸人になりたいんだってなぁ!? 俺も、お前らの夢応援するぜ!! 俺に任せとけ!!」
「げっ」
最っ悪だ!!
俺は頭を抱えた。
うちの担任は、超がつくほどお笑い好き。おまけに担任の風上にもおけない人の話を聞かないノーブレーキ野郎だった。
なんでだ!? 一体、誰がこんな面倒な男を連れてきた!? と思った直後、ハッとする。
「篠原くん!」
「……佐倉さん。まさか?」
「へへへ! 応援しようと思って先生に話しちゃった!」
にこっと最高の笑顔で言われた瞬間、もう引き返せないことを知った。
俺の肩に、村山の手が置かれる。
「篠原、よろしくな?」
「あ……あはははは……」
俺は、お笑い街道のスタートラインに立たされてしまったのだった……。
嫌いなあいつとお笑いとか無理だろう!? 香澄るか @rukasum1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます