素晴らしきかな、こけし

無頼 チャイ

こけし様

「やっとここにこれたんだな」


「あー、これでようやく俺たちにも……」


「「春が訪れるッ!!」」


 二人の男、聡志さとしさとるはアメリカンコメディのように大げさに手を上げて喜んでいた。

 大学生になってそれなりに学生ライフを楽しんでいた時のことだった。学食を食べながら世間話をしていた二人は、食堂に男女で座るペアの多さに天地を揺るがす落雷に打たれたような衝撃を受けた。

 そう。勉学に勤しみ友人との交流を深めて、次にやることといえば、


 彼女を作る! だったのだ。


 しかし、二人は人見知りが激しく、異性に喋ることさえ出来ないため、神頼みをしようとネットで縁結びの神様がいる神社を調べた。

 そしてここ、山の天辺に建てられた神社に訪れたという訳である。


「ようし、準備は出来てるか」


「あぁー、もちろんだぜ聡志」


 小さい鳥居を潜ると、小さい社に賽銭箱と普通の神社と変わらない物が置かれていた。

 どうせなら秘境にあるような場所に行こうと山の天辺にあるこの縁結び神社に来たわけだが、思いのほか普通で拍子抜けした。

 まあ、こんなところに建てられてる訳だし縁を引き寄せる力ぐらいは……んん?


「なあ悟」


「なんだ?」


「あれ、こけしか?」


 指を指したところに、こけしが置いてあった。

 祭壇の中央、二本の蠟燭に挟まれるようにして。


「こけしだな」


「こけしだよな、何でこけし?」


 温泉何かのお土産屋に売ってるのを見たりするけども、神社で見かけたのはこれが初めてだ。というか縁結び神社と何の関係が……、


「あ! 俺分かったかも」


「何が?」


「ここにあるってことは、縁結びの神様、つまり、こけしなんだよ!」


 いやいやいやいや。


「それは無理があるだろ、顔をよく見てみろ。おかっぱ頭の子供だぞ。恋愛のプロには見えないって」


「でもこうして飾られてる以上何か凄い力を持ってるんだぜきっと! それに、改めて見るとこのこけし様中々美人だしな」


「こけし様!?」


 それに美人って、百歩譲って可愛いは言いにしてもこけしに美人もなにもないだろ。


「こけし様、俺に可愛い彼女をお願いします!」


 悟が拝みながら五円玉を賽銭箱に投げ入れる。

 まあ解釈なんて人それぞれだろう、と俺も賽銭箱に五円玉を投げ入れ彼女と出会えることを祈った。


 数日後、悟に彼女が出来た。それもめちゃくちゃ美人な彼女。


 「いや〜こけし様今日も美人ですね〜、こんな素晴らしい日にはお願いの一つや二つ叶えたくなるでしょ〜」


 悟に彼女が出来た翌日、急いで例の神社に向かって鎮座するこけし、もといこけし様を褒め倒した。力があるとは思っちゃいないけど、悟が褒めちぎって出来たのならこうして褒めていれば出来るかもしれない。


 と、聡志は下心全開で褒めまくった。



 数日後、聡志は綺麗な女の子に呼び出され、指定した時間に近くの喫茶店に来てくれと言われた。

 期待高まる胸を抑えながら、来たる時間までに色々な準備を済ませ、そして、指定の時刻と共に喫茶店の扉を開いた。


 約束した女の子がテーブルに座って手を振っている。


「おまたせ。で、用件って何?」


「この子が話したいことがあるの、ほら」


 この子? 見ると窓側に座るもうひとりの女の子がいた。身長は低く、おかっぱで、どこか見覚えがあった。

 というか、あの神社のこけしじゃない?


「あ、あの! 好きです! 私と付き合ってください!」


 おかっぱの子がそういった。


 あれ? 隣の子が告白するとかじゃなくて?


 とりあえず断ろうかと考えたが、今おかっぱの横には友人で美人な女の子がいる。今断れば悪い印象を与えかねない。なので、


「気持ちはありがたいんだけど、ちょっと考えさせて」


 返事を待たせると同時に目の前でふるのを見せない事に成功した。しかも、「このあと用事があるので失礼します。お返事待ってます!」と言っておかっぱの子が帰る。

 これは美人なこの子と仲良くなる絶好の機会では! と振り向くと、立ち上がった女の子が聡志の肩に手を置いてそっと言った。


「あの子泣かせたら承知しないからね」


 翌日、おかっぱの子と付き合うことになった。


 そして大学卒業後。その子と俺は結婚した。

 

 人の縁とは不思議なり、結局、あのこけしは運命の相手を紹介してくれたのだった。


 素晴らしきかな、こけし。

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