3年目 大きくなった猫もかわいい

 三年目。もうこれ以上大きくならないと分かっているのに、まだなぜか大きくなっているような気がする。不思議なものだ。


 大抵のことは三年目に突入するする前にできるようになっていたから、真新しいことはあまりないが、変化を挙げるとするならば二つ。一つ目は爪と牙が鋭くなったことだ。


 猫じゃらしをを模したおもちゃで遊んでいる時にヒートアップして、爪が手に引っかかったりすると、僕の手には赤い線が現れる。ひどい時だとそこから血がたらりと落ちるのだ。


 怒った猫に噛まれた時も、その部分を見ると赤い点が2つできていて窪んでいる。それに、結構痛い。思わず吸血鬼とか蛇に噛まれたみたいだと思い写真を撮ってしまった。僕以外にも、同じことをした人がいることを信じたい。


 二つ目は、部屋の扉を自分で開けることが出来るようになったことだ。僕の部屋は、扉が緩く小さい力でもドアノブさえ捻ることが出来れば開けられる。しかもドアノブは、丸い形ではないから、人間のように細かい動きができる手ではなくても開けることができる。 


 最近は大学の受験勉強も始まったこともあり、集中するために勉強中は猫を部屋の中に入れないようにしていた。外から「にゃあ」と何度も鳴かれれば、開けてやりたくもあるが、勉強が手につかなくなることは明白だ。泣く泣く猫の誘いに無視を決め込むことにした。


 ところが、何日かを過ぎた後のことだった。いつもの通り部屋の前で鳴かれたが、時間が経てばリビングか他の部屋に行くだろうと放置していたら、なぜか背後から「ガチャ」とドアの開く音がした。


 慌てて振り向いてみると、猫がいた。部屋の外も見てみたが家族は誰もいない。ここから導き出される予想は一つ。


 猫、自分で部屋開けたのか。


 猫はただ「にゃあ」と鳴いて、足元に擦り寄ってきた。結局家族に聞いても誰も開けてないと言うし、この時はまだ真相は分からなかった。


 その後同じようなことが何度か続き、猫が自分で扉を開けることができるようになったと確信した。


 それからしばらく後、僕は志望校に合格した。そして、大学が県外であることから寮に入り、家から離れて暮らすことになった。


 もちろん猫とも離れることになる。本当はすごく悩んだ。家から近いが学費が高い学校か、県外だが学費が安く授業が面白そうな大学か。猫と一緒にいれる環境か、いれない環境か。


 志望校を選ぶ条件に猫といることができるかどうかを組み込むくらいには、猫と離れることは僕にとって一大決心であった。それでも僕は、大学に通う四年間とはいえ、猫と離れることを選んだ。

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