人生に猫は必要か

大和詩依

1年目 子猫かわいい

 僕が高校一年生の六月頃、猫を飼い始めた。生後三ヶ月の子猫だ。祖父母の家で猫を見てから、家でも飼いたいと駄々をこね続けて十年以上経った末にようやく希望が叶ったのだ。


 まあ、無条件ではなく、親が提示する偏差値ライン以上の高校への合格が条件であったから大変ではあった。それでも保護猫譲渡会で見かけた彼女が実際に家に来てしまえば、それまでの苦労なんて一瞬で忘れられるほどに可愛かったのだ。


 いや、可愛いなんて一言では表せない。子猫特有のきゅるんとしたつぶらな瞳、顔に対してやや大きめの耳、そして、ふわふわした毛玉のような体。それでいて艶のある毛。


 癒される。抱きしめたい。ご飯をお腹いっぱい食べて好きなだけ遊んで欲しい。とにかく猫に対して、自分が向けられる最大限の好意が向けられている。もうなんでも言うこときいてあげたい。もはや猫ではなくお猫様だ。


         ♢♢♢


 一年目。猫は子猫だった。小さい。とにかく小さい。小脇に抱えられるくらいだ。そして軽い。そのくせ成猫に比べればまだまだだが、すばしっこさだけは人一倍ある。少し動いたところに体当たりのように駆け寄られては、気をつけていても思わず蹴っ飛ばしそうだった。


 こっちも初めて猫を飼ったものだから、接し方がいまいちぎこちなかった。近所でよく見かけた野良猫よりもはるかに小さく、子猫をほとんど見たことのなかった僕にとっては未知の生き物だ。


 猫も猫でまだ人間、というよりこの家に慣れていなかったから、カーテンの裏やテレビ台の裏なんかの、人から見えない場所に隠れていた。もしかしたら、保護猫だったから人間が怖かったのかもしれない。


 しばらくはそっとしておこうと家族の中で決まってからは、極力僕から猫を触りに行こうとはしないようにしていた。今思えば、目の前にこんなに可愛い生き物がいるのに、堂々と触れに行けなかったこの時期が、最ももどかしかった。


 耐えて耐えて、ついに猫から人間に寄ってきた時は感動すら覚えた。それまでの期間は約二週間。ようやく猫と触れて遊べるようになった。


 それからは懐いて欲しいと、構いたいという気持ちが大きく、猫じゃらしを模したおもちゃでたくさん遊んだ。猫もまだまだ子供だから食いつきが凄まじい。それでも爪は小さく、体重も軽いからぶつかられても可愛いものだ。


 この頃は本気でこの猫が居なくなったり、死んでしまったらどう生きていいかわからないと思っていた。 

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