パワハラでセクハラでアルハラでシノハラさん
西沢哲也
面倒な飲み会から始まる恋
「さあ、来週に迫ったの期首飲み会だが、親睦を深めるためあみだくじを使用して、二人で漫才をしてもらうぞ!」
うげぇ…… だれもがそう思った瞬間であるが、部長に逆らうような勇気もあるわけもなくただただあみだくじが今年のお役目に当たらないことを祈った。
「さて、あみだくじの結果だが、おっ、松本と篠原二人に決まりだな! 男女ペアなんて当たりだな松本! 羨ましいぞ」
うげぇ…… 俺かよ。しかも、ペアが篠原さんかよ……
篠原さん…… 同期であるが、クール系美女として有名であり、仕事も要領よくこなすため会社のエース候補として会社に期待されている存在であった。そんな彼女にパワハラまがいのことをやらせる会社も会社だと思うが、真面目な彼女に漫才なんてできるのか不安になる。
まあとりあえず、部長にこたえるように立ち上がって彼女の机のほうに向かうと
「ははっ…… そうですね。篠原さんよろしくお願いしますね」
「そうですね。あと……」
と言われて、一枚のメモ用紙が渡された。
{終業後、第三会議室に来るように 篠原}
(いきなり呼び出しかよ…… なんか準備いいな(???))
~~~~終業後~~~~
こんこん「失礼します」
「遅いわ、松本君。時間は帰ってこないのよ? これも業務の一環でサービス残業のもんだから早く始めて早く終わらすわよ?」
いきなり怒られた…… まあ俺の行動で叱られたのだからしょうがないと思いつつ
「申し訳ございません。それでどのような芸をやるのですか? いやぁ私自身は恥ずかしいもので違う一発芸をそれぞれやって、それでさらりと終わらせたほうが良いかと思うのですが?」
「それは却下! わざわざ部長は二人ペアで漫才をするといったはずわよ? それに、ネタはこのネタをコピーします!」
と言って、動画を見せられた。
動画はカップル漫才で有名な“セイ!アイラブユー!”と言われるユニットのものでイチャイチャコントをした後に最後に二人でハートを描きながら“セイ!アイラブユー!”と叫ぶコントで人気を博していた。
おいおいまじかよ…… と心の中に思いつつ眺めていると、なんか文句あるのいわんばかりの厳しい眼差しを隣から向けられたものだから
「はい…… いいと思います」
と同意の言葉を発し、流れるままに練習が始まったのである。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
一日目、二日目ともにセリフを合わせながらコントの練習を行い何とかセリフ自体は覚えることに成功したが、最後の締めの“セイ!アイラブユー!”の場面で俺の羞恥心が働いてしまい、中断する時間が続く。
篠原さんも困り顔で
「そんなん恥ずかしがっちゃだめだわ。やり直し!」
と厳しい声で叱咤され、またオチでつまずくということを繰り返した。
三日目、事態が急変した。
「ねえ、松本君? 実は会議室でサービス残業していたのが会社にばれたようなの…… それで、特に業務に関係のないことで残るのはダメって言われて……」
「えっ? でも、篠原さん先日はこれは業務の一環でって?」
「会社にそう認定されちゃダメなものはダメってことよ? てなわけで、今日の終業後ちょっとついてきなさい?」
「…… わかりました。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
篠原さんに連れ去れて俺はカラオケの個室にいた
「さて、ここなら思いっきりできるわね? さて、歌うわよ?」
「えっ? コントの練習するんじゃ?」
「え? もうコントの内容なんて覚えたでしょ? それに、最後の行為が恥ずかしいっていうのならここで親睦を深めればいけるよね?」
なんか、パワハラを受けた気がするけど、気にしないようにしながら
「そ、そうですね 篠原さんは何を歌うんですか?」
と話を振ると、篠原さんは華麗にリモコンを操作し、予約を入れる
予約された画面を見ると
{ライオンたち}
「とりあえず、私とデュエットしなさい? 貴方この曲好きでしょ?」
確かに、好きではあるがなんで好きなの知っているの? そんなことも思うとイントロが始まって歌いだし、彼女の声はクリアな高音が響き渡り、純粋にうまいなと思った。そんな、彼女を包み込むように力強い声で答える。
彼女は少し表情を崩し、業務中には見せないような優しい笑顔でこちらを向いてきた。
(かわいい……)
はじめて、彼女に対してそんな感情が沸いた。いかんいかん会社の同僚だぞと頭を切り替えて、オチさび前の掛け合いに入る。
お互いに高音になりがちなIパートでも、彼女の心地の良い声はルームに響き渡り、これに答えるようにでる俺のテナーボイスもルームに響き渡る。そして、最後のオチさびも気合で歌いきるとうっすら汗を浮かべた表情で見つめあう。
「貴方、そんなに歌えたのね? 感心しちゃったわ」
「そんな、篠原さんの歌がうまいのですね。なにかやっていたのですか?」
「大学時代に合唱サークルに入っていて少しね?」
「へー、俺も学生時代に歌ってたもんで…… でも、なんでこの曲俺が好きって知っていたんですか?」
「あっ……。 それはね、偶然ほかのひとから聞いたのよね?」
(あれ、そんな話会社でしたっけな?)
でも、気まずそうに話す彼女の顔もなんだか愛おしく感じてきて、俺は篠原さんに新しい感情が芽生え始めていたのを感じた。
~~~~飲み会当日~~~~
「よ~し、余興タイムだぞ! ってことで松本! 篠原! よろしくぅ~」
という部長の声とともに飲み会のテーブルの間にできた小さなスペースに二人で整列すると同僚の拍手とともにコントが始まった。
コントは普段クールな彼女がボケに回り、普段ミスが多い俺が突っ込みに回るカップル漫才で、普段真面目な彼女がぼけるたびに同僚から普段見せない篠原さんが見えたといわんばかりの歓声が上がり、なんだか彼女を誰かにとられたくないという感情が沸き上がる。
そして、最後決め台詞の“セイ!アイラブユー!” 俺は最後の最後まで恥ずかしくて言えなかったが、今までのことを思い出し、二人でしっかりとしたハートマークを描きながら“セイ!アイラブユー!”を決める。そして、
「篠原さん…… 私はあなたが好きです。これから彼女として付き合ってください」
と右手を差し出し告白した。
彼女は頬を赤く染めながら
「はい、お願いします。」
と、差し出した手を握り返した。
会場は今までで最高のテンションまで上がり、もう居酒屋の酒がなくなるんじゃかと言わんばかりの賑わいを見せた。
「うんうん。松本君かっこよかったよこれはひとえに私の演技が……」
「部長? 演技とか言っちゃいけないですよ?」
(えっ? 彼女は部長と何を仕込んだんですかね?)
そんなことはまあ置いておくとして俺は彼女と楽しく過ごしていくことを誓った。
パワハラでセクハラでアルハラでシノハラさん 西沢哲也 @hazawanozawawa
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