チームネタ将のキセキ

清水らくは

# チームネタ将の紹介動画

1-1

 昼間、家族がみんないくなった家で食べるご飯は切ない。両親は仕事、妹の美鉾は学校に行っている。スマホで棋譜中継を観ながら、ラーメンをすすっている。

 突然、電話が鳴った。福田さんからだ。

「はいはい、何?」

「こんにちは。まず警告だけどぉ、今収録中なの」

「は?」

「もちろん録音もされているから、変なことを言うと大変なことになるかもしれない」

 連絡が来たと思ったら突然脅されている。何と物騒な。

「わかったわかった」

「そんな軽い……今から私は、とても大事なことを言うのに」

 ため息の音が聞こえる。大事なこと? 収録中というから、罵詈雑言ということはないと思うけど。

「大事なことって?」

「私たちの監督になってほしいの」

「監督?」

「私たちの、『チームネタ将』の監督よ」

「チームネタ将?!」

 ついに戦略的な何かを始めたのだろうか。福田さんならやりかねない。

「そう。将棋囲碁チャンネルの団体戦、今度は女流版があるの。今日はそのドラフト会議の日だったのよ」

「へー」

「で、各チームに監督が付くわけよね」

「はー」

「で、お願いっ」

「……」

 正直、なんで僕なんだろう。監督と言えば、もっとふさわしい棋士がたくさんいるだろうに。まあ、最近は仲がいい感じではあるけれども。

「ちょっと、どうなの?」

「いやまあ、問題はないけど」

「よかった。じゃあ、お願いね、監督」

「いやそれはいいけど……もしかして、『チームネタ将』って、正式な名前?」

「当然よ」

 それはどうだろう。将棋界の歴史に残ってしまうかもしれないのに。

「まあ、福田さんが決めたならいいけどさ……」

「なんたって、将来ネタ将として有望なメンバーを指名したんだから!」

 鼻息が聞こえてきた。福田さんはものすごく気合いが入っているようだ。

 こうして僕は、女流版早指し団体戦、チームネタ将の監督に就任することになったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る