涙のバター醤油焼きうどん

羽馬タケル

第1話 同窓会



同窓会で10年ぶりに再会した芽以は、女の私から見てもドキリとするような、魅力的な女性へと変貌を遂げていた。


ほんのりピンクのファンデ、アイシャドウとライナーにより見違えるように変わった目元。


以前は欠点だった芽以の太眉は、眉尻を整える事で今やセックスアピールとなり、男性陣の気を惹き付けてやまない。



「大学入って、彼氏が出来てから何かメイクとか意識するようになったんだよねぇ」


事実、芽以はかつてクラスメイトだった男子に囲まれながら、モスコミュール片手に得意げに話していた。



が、正直芽以のその姿は私から見れば、どこか鼻についた。


中学時代の芽以は、私と同じくイケメンが出てくるアクションゲームやアニメに夢中になる、「クラスの2軍的存在」であったハズだ。


そして、私と芽以はクラスメイトから発せられる言われなき中傷に対して、お互いの傷を舐めあう事で、ツラい学生生活を乗りきってきた。


しかし、今、私の目の前にいる芽以は学生時代とは違い自信に満ち溢れており、未だ「陰キャ」として生活している私は、彼女に対しどこか劣等感を抱いていた。



「サチはこの後、予定あるの?」


同窓会もお開きとなり、有志が二次会に繰り出そうとする中、芽以はかつて私達が友達同士だというのをアピールするかのように、肩を組みながら尋ねてきた。



「うーん、今日はもう帰ろうと思う。

皆、元気だってのが分かったし、今日は芽以や皆と会えて楽しかったよ」



「用事無くて帰るだけだったらさ、サチちょっと付き合ってくんない?」


芽以は赤ら顔を私に近付けると、密やかな声で切り出す。



「実はさ、ココからちょっと歩いたトコに、アタシの行きつけの店があんのね。


でさ、今日はサチと殆ど話せなかったから、そこで二人で飲み直さない?

せっかく、久しぶりに再会したんだしさぁ」



「いいの?

私はともかく、芽以は二次会に行かなかったら、男子からブーイング食らうかもだよ」


実際、何人かの男子は宴会場の出入口にある障子に手をかけながら、「芽以ー、サチなんか放っておいて二次会行こうぜー」と、聞こえよがしに叫んでいた。



芽衣は「いいんだよ、あんなヤツら」と、勝ち誇ったように、口角を上げた。



「こっちが、ちょっと見た目変えただけで、気持ち悪いくらい手のひら返してきやがってさ。


お前ら中学の時、どんだけアタシやサチの事を『オタ』とか『ぼっち』とか言ってバカにしてやがったんだよ。


アイツらの記憶力、疑うよ。

脳ミソ腐ってんじゃないの、って」




結局、私は芽以の押しに根負けする形で、彼女が行きつけと称する店に足を運んだ。


一軒目の大衆居酒屋から徒歩20分、繁華街の裏路地にその店はあった。


カウンターのみの営業形態、スペースは6畳程。


ほの暗い店内はオシャレではあるが、女子一人では入りにくいその店は、こうして芽以に誘われなかったら私は決して赴く事は無かっただろう。



「マスターが一人で切り盛りしてんだけど、ここ料理が絶品なのね。

で、『バター醤油焼うどん』が特に美味しいから、サチも食べてみてよ」


芽以はフードメニューを私に手渡すと、こっちの返答を待たずに「マスター、『バター醤油焼うどん』一つね!」と、愛嬌いっぱいの声音で注文を告げる。

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