両想い以上ギリ恋人未満/お題:どうあがいてもカップル/百合


「───だから僕は別にミサとカップルとかそういうんじゃないんだってば!」


 早口で捲し立てるように、それでいて大声で掻き消すように、ショートカットがよく似合う眼前の彼女はそう叫んだ。


「うん、カップルだよね?」


 顔を真っ赤にしたルカの態度を棚の上に置き、私がそう言葉を続ければ、彼女はただでさえ赤くしていた顔をより赤くして、ぶんぶんとプールから上がった犬のように頭を大きく横に振ってみせた。

 おやおや照れちゃって。女の子に囲まれては鼻の下伸ばしてる人気者のあのルカちゃんも、本命のこととなるとすっかりツンデレどヘタレガールになっちゃうんですなあ。

 そうやってヘラヘラと笑いながらからかえば、彼女はとうとう頭を机に突っ伏してしまった。


「あー…はは。からかいすぎたかな?」

「………べつに好きとかそういうんじゃねーし…」


 不貞腐れたようにベタな台詞を吐いたかと思うと、バッ、と勢いよくルカは立ち上がる。なんだなんだと見上げれば、彼女はきっ、と私を睨みつけて高々に宣言した。


「僕とミサがいかにただの友達か見せつけてあげるから!ちゃんと見てろよ!?」

「……ええ」

「見たら絶対違うってわかるから!な!だから!ほら!」

「あー、わかった、わかったから。見てあげるから……」


 そうして問題のミサちゃんのいる隣のクラス目掛けズカズカと進んでいくルカ。その後ろを少し離れたところから追いかけ、私はなるべく自然になるようスマホを片手に廊下にもたれかかる。

 それをちらりと確認してから、ルカは宣言通りミサちゃんの元へと駆け足で近寄る。


「あ、ルカさん!えへへ、えと、どーしたの?」


 可愛らしくこてん、と小首を傾げるミサちゃんはまるで子犬のようで、遠巻きに見ているだけでも軽率に胸を射止められそうになる。

 わずかに頬を染めて嬉しそうにルカを見上げるその姿はまさしく恋する乙女そのもので、誰がどう見たってミサちゃんがルカのことを好きなのは明白だった。


「え、あ、えっ、と…なんていうか、その、ちょっとミサの顔が見たくなっちゃって」

「ええ!?……あ、ご、ごめ、びっくりして、っていうか、嬉しすぎておっきな声出ちゃったや…」


 恥ずかしそうに目を伏せる彼女の愛らしさにやられたのか、ルカは耳まで赤くして遂に忙しなく体を揺らし始めた。

 余程戸惑っているのかちらりとこちらに視線で助けを求める始末。

 ヘタレに助け舟を出す趣味はないよ。

 そう思いを込めてシッシッと手を振れば、ルカは一瞬不満気な顔をしてから、軽く咳払いをしてミサちゃんに向き直った。えらいじゃん。


「あー、てか、ミサ、今日、放課後予定とかある?部活は今日休みだよね?」

「えっ、あ、う、うん!…ルカさん、は?」

「ぼっ、僕は…その、今日はたまたま暇なんだよね。だ、だからもしよかったら、その、デート、とか」


 しどろもどろになりながら放たれた言葉に、流石に目を見開いて凝視する。

 ミサちゃんは顔を真っ赤にして固まっているし、たまたま近くにいた彼女のクラスメイトもざわめいている。

 当の本人も口にするつもりはなかったのか、あーだとかうーだとか大慌てで何かうめいている。


「あー、……あ、あのほら!…さ、最近雑誌で見たんだよ、友達とのデート先のおすすめスポット…みたいな特集!それでその、ネットに記事出てるから見てほしくて、」


 やっと思いで出てきたらしい言葉を必死に紡ぎ合わせて、彼女は自分のスマホをミサちゃんにみせる。

 ミサちゃんもようやく石化が解かれたようで、相変わらずの顔の赤さのままだけど頑張って画面を覗き込んでいた。


「………はぁ」


 なんで私は他人様がいちゃつく様子を見守ってるんだ。バカバカしい。

 ため息を追加してから、踵を返して先に教室へと戻って、ぐでっと机に突っ伏した。

 そうして数分後に息を荒くして駆け込んできたルカを向かい入れれば、ご不満たっぷりにジト目で睨みつけられて。すかさず鼻で笑ってやれば、一層彼女の眉間に皺が寄った。


「それで?デート先は決まった?」

「デッ、…いや、と、友達同士として遊びに行く場所はちゃんと決まりましたけども。……そ、それより、ちゃんと見届けたならわかるでしょ?その、ミサと僕はこ、…恋人じゃないって!」

「あー、うん、たしかにあれはカップルじゃないね」


 まあ、どうあがいても将来的にはカップルだろうけど。

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