圧倒的自業自得/お題:どうあがいても嘔吐/百合
人生は後悔の連続だなんて文言をSNSで見たことがある。ならば私が後悔をするのも、仕方がないことなのかもしれない。悔やむべきは、自らの性根か、それとも選択か、生まれてきたことそのものか。
そう言えば、後悔の味なんて言葉もあったか。私にとって後悔の味。強いて言うなら、そうだ、吐瀉物の味だろうか。
数年前、当時付き合っていた彼女に詰め寄られ、どうにか取り繕うとするも見事失敗し、最終的に勢いよく腹に拳をお見舞いされて。そして、吐いた。
浮気判定をするかどうかは人によるが──他の女の子にちょっかいを出していたのは事実だし、上手いこと隠せていると思い込んでいたのも事実で、しょうもないうっかりミスでバレたのも事実。
別に開き直るつもりもなかった。謝罪してどうにか許されるつもりもなかった。
それは、当時も、今も。
私は現在、まだ一応は恋人関係にある女性に、他の女の子とのメッセージアプリでのやり取りの画面を印刷した紙と共に詰め寄られている。
まいったな。血気盛んな子はあれ以来ターゲットから外してきたつもりだったけど、どうやら読みを外してしまったらしい。
うーん。とわざとらしく考える余地もなく、彼女はまた一歩、また一歩と恨言を並べながら私に詰め寄ってくる。しかもしっかりと片方の拳を握りしめて。あ、紙捨てた。
両手指をボキボキと鳴らしながら、それはそれは血気せまる気迫で私ににじりよってくる。
女の子に嘘をつくのは趣味じゃない。女子校時代から私はいつも女の子には素直に真摯に向き合ってきたつもりだ。事実を隠していただけ。嘘はついていない。……それを真摯とは呼ばないと、そういえば一昔前に別れたあの子に言われたっけ。
大人しく殴られるのは回避したくて、どうにか彼女を宥めようとする。
笑顔を取り繕い、手をひらひらとはためかせて必死に言葉を紡いでいく。
………。
……あ、無理だ。余計怒ってる。どうしてだろう。心当たりしかない。
吐く予感しかしないから腹を殴るのだけはやめてほしい。あと顔もちょっと女の子にモテなくなったら困るからやめてほしい。肩とか足ならまあまだ大丈夫かな。下手に避けたらそれこそ今度は包丁を突き立てられるかもしれないし、うまいこと一発で満足してほしい。
というかそもそも殴らないでほしい。どんな願いも聞いてあげられるし。例えばほら、他の子に貰ったお金もいっぱいあるから、貢げって言うならいくらでも貢げるし。
そんな私の思いが届いたのか、あるいは動揺のあまり声に出してしまっていたのか、彼女はにこりとひとつ微笑んでくれた。
ごすっ、と。
刹那響いた鈍い音と、鈍い痛み。
どう足掻いても、嘔吐から逃れる術はないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます