第13話「窮地」
リュウとベリアルは……
天界特別遊撃隊メンバーとし、初めての任務を受け、出発した。
しかし!
じわじわと『窮地』へ、追い込まれている……
ふたりは、目的地である村の近くにおいて、突如現れたゾンビの大群に襲われたのだ。
襲いかかるゾンビは、数百体くらいである。
まあ元勇者と元魔王のふたりが、万全なら、物の数ではない。
だが、その数が一向に減らない。
倒しても、倒しても、逆にまた増えて行くのだ。
そして……
先程の火炎攻撃にこりず、またも大量のゾンビがわらわらと、リュウとベリアルへ押し寄せて来た。
ぬちゃ……
くちゃ……
べちゃ……
ゾンビ共が大地を踏みしめる、不気味な足音が迫って来る。
リュウは「ぎりっ」と唇を噛み締めた。
まるで、昔見た映画のワンシーンが甦って来る……
ゾンビ共があと数mまで迫った瞬間!
すかさず、発動したリュウの魔法で猛火が放たれ、またもゾンビはおぞましい悲鳴をあげ、後ろに下がった。
リュウがまたも、守ってくれた。
ゾンビをあっさり撃退したというのに、ベリアルは掠れた声で笑う。
嘲笑と、言っても良い。
「へへへ……しょっぱいな、お、お前もよぉ……こ、こ、こ、こんな奴等は! 昔のお前なら爆炎一発でまるごと、
爆炎一発……
そう、かつての魔王ベリアルが率いた、夥しい部下を抹殺したのは、この『おっさん勇者』が大いに得意とした強烈な攻撃魔法、『爆炎』
多分『爆炎』を使えば、雑魚であるゾンビなど、一瞬で消滅するだろう。
その爆炎を何故か、リュウは使わない。
「…………」
黙り込んだリュウへ、ベリアルは叫ぶ。
「お、おっさん! どうせ、……つ、使えないんだろ、爆炎!」
爆炎を……使えない……
念を押されたリュウは、開き直ったように叫ぶ。
「ああ、そうさ! 俺だってもう、爆炎は使えねぇ!」
「あ、あ、あははははははぁっ!」
案の定!
「してやったり」という表情で、元魔王は笑った。
しかし、地上で笑っていた勝ち誇る笑いとは、全く異質な笑いであった。
ざまぁ!
という笑いとは違う。
「お前もか?」という、憐れみを含んだ笑い……
「お互いに何やってんだろうな」という共感が伝わって来る笑い……
普通なら、思いっきり笑われて、とても悔しい筈なのに……
ベリアルに、奇妙な連帯感を覚えながら、リュウは叫ぶ。
「分かったから、もう喋るなっ! おめぇは身体がえらく弱って、魔力もすげぇ減ってるんだぞぉっ!」
「ひゃははは……そうだ! お、俺なんかよぉ! おっさんより! も、もっと最低だぁ。ゾ、ゾンビがぁ、生理的にすっげぇ苦手になっちまった……」
「…………」
「や、奴らを、見ただけで身体が強張った……な、情けねぇ!」
「…………」
「お、お前に負けたくねぇ! そ、そう思って、無理して戦おうとま、待ち受けたら! 奴らが、の、呪われた奴らが傍へ来たら、か、身体が、全く動かなくなった……そ、そ、それでこのざまなのさぁ」
「分かったよ! 安心しろ! 後は俺に任せろって!」
「は、はははははっ! 無理、無理っ」
「おい! ベリアルっ、何が無理なんだ?」
「へへへ、わ、分かるぞぉ! お、俺にはなぁ! え、偉そうに言ったって、お、おめぇだって! 魔力が減ってる! ま、前より、す、す、凄くパワーダウンしてやがる……」
ベリアルは見抜いていた。
リュウの現状を。
こうなれば、リュウは素直に認めるしかない。
「ああ、してる」
「やっぱな! だ、だってよぉ! こ、こんなゾンビ共なんか、お、お、俺達の! て、て、敵じゃない筈なのになぁ……」
「おう! その通りだ! こんな奴等なんか雑魚だ」
「でも……お、お前も……馬鹿だな……俺の事、い、いつも! さ、散々、ば、馬鹿って! い、言ってる……癖によぉ……」
「もういい! 喋んじゃねぇ! 言っただろ? お前、身体がひどく弱ってんだぞ」
「さ、さっさと……お、俺なんか、見捨てて、に、逃げれば良いのに……よぉ」
「喋んじゃねえって、言ってんべ!」
「お、お、おい! お、おっさん! な、なまってんじゃねえかよ?」
「うっせ~」
「はは、へへ、な、情けねぇ……最強魔王がこのざまじゃあ、な……」
リュウには分かった。
間違いない。
ベリアルも自分同様……天界により補正されたのだ。
現在のランクである、D級神に相応の力へと。
加えて、致命的な体質にされてしまった。
呪いに弱い体質など……
これからベリアルは、受諾可能な仕事が限られてしまうではないか。
と、またその時!
更に、大量のゾンビが押し寄せて来た。
こうなれば同じ事の繰り返しだ。
リュウの魔法が、また発動。
猛火が放たれ、またもゾンビは奇声をあげ、後ろに下がったのである。
しかし……
神になったとはいえ、リュウの魔力は無限にあるわけではない。
有限であり、いつかは尽きる。
完全に回復する為には、ある程度の時間を要する。
そう、管理神ルイからは教えられていた。
一方……
ゾンビは無尽蔵に湧いて来る。
勇者だったリュウには経験があった。
ある死霊使いと戦った時の事だ。
こういうゾンビは、術者を倒すか、ゾンビが湧き出る魔法陣等、元を断たないと駄目なのだ。
今回……奴らが、湧いて来る発生源は村の墓地。
そしてゾンビが無尽蔵に湧いて来るのは、何者かがその墓地を魔法陣を使い、異界へ繋げているのに他ならない。
そうでないと、墓地へ埋葬された者以上の数が現れ、襲って来る理由が付かない。
今回は、その墓地を浄化し、異界からの扉を閉めないといけない。
その為には、葬送魔法を使うしかないのだ。
だが……
葬送魔法は現場である墓地へ移動、現場で詠唱に時間をかけ、発動しなければならない。
この場を離れれば……ベリアルはすぐに喰われ、死ぬだろう。
リュウもいずれ魔力が尽きれば、肉体の防御力は落ち……殺される。
かといって、背中におぶるなりし、ベリアルと墓地へ行ったら……
逆に、もっと多くのゾンビに囲まれる事は明白だ。
状況は、更に悪化するに違いない。
全く同じ事を、ベリアルも考えていたようだ。
彼は声を振り絞った。
助かる唯一の方法は……
ベリアルは大きく叫ぶ、真剣な口調で。
「に、逃げろ! お、お、おっさん! お、お前だけでもっ! 親や家族が居るんだろうがぁっ!」
「ばぁか! てめぇを見捨てらんねぇんだよぉっ!」
迷う事無く、即座に返すリュウの言葉を、聞いたベリアルの目に……
「どっ」と涙が溢れて来たのであった。
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