第4話「おっさん二度目の転生を果たす①」
どこからともなく……『おっさん勇者』を呼ぶ声が聞こえる。
「やっほ~、リュウ君、お~い、リュウ君や~い」
能天気……に、何度も名前を呼ぶのは、やや高めのハスキーな男の声である。
呼ばれたおっさん勇者……リュウに意識が戻って来た……
「誰だぁ、俺を呼ぶのは?」
「僕だよ~ん」
声のした方を見れば、リュウの知らない男が、たったひとりで立っていた。
この、軽いノリの声……確か、最初の転生の時にも……
ようやく思い出して来た。
リュウには、聞き覚えのある声だから。
それは、
「あ、貴方は確か……管理神様ですよね。……でも俺、初めてお姿を見ましたよ」
勇者リュウを呼んだ相手……
それは彼が普通の人間から初めて転生した際、魔王討伐の使命を言い渡した、この世界の管理神である。
ちなみに最初の転生の際、リュウの前に現れた時、管理神は声だけの存在であった。
しかし今は、はっきりと姿を見せていた。
寝ているリュウの傍らに居て、柔らかな笑みを浮かべ、見下ろすように立っていたのだ。
リュウが改めて見ると、管理神の身長は、180㎝を楽に超えた長身である。
服装はといえば、真っ白な
ガチムチな自分と違って、長身瘦躯。
何故か神様なのに、人間がかけるような、小さな丸い型のお洒落な眼鏡をかけていた。
髪型はサラサラの金髪を、後ろで「きゅっ」と縛るポニーテールだが、全く嫌味ではなく、怖ろしいくらいにはまっていた。
美しい碧眼が煌めき、鼻筋が「びしっ」と通った顔の造りは、苦み走ったクラシックタイプのイケメンである。
管理神はリュウを見て、さも面白そうに笑う。
完全に大人な風貌に似合わず、口調はウルトラライト。
リュウは、そんな管理神に、凄~くギャップを感じる。
風貌が、倒した魔王にどことなく似ているのも気になる……
「あははっ、そうだよ~ん。じゃあ改めて名乗ろうか、僕はルイ」
「ええっとぉ、管理神様の名前がルイ、ルイ様……」
「うん! 一応で良いから覚えといてっ。それと、ようやく気が付いたみたいだねぇ」
転生させて貰った相手の名前は分かったが、一応覚えれば良いとは……
神様がそんなに適当で、果たして良いのか? とリュウは思う……
「ル、ルイ様」
「うん! 何?」
「俺は一体……どうしたの……ですか?」
「うん! 喜んでね、リュウ君は助かったんだよ」
「俺が? 助かった? ……ええっと……あの時」
「うんうん、凄かったよ、魔王との最終決戦!」
「ああ、そうですね……いいかげん決着つけようって、俺とあいつの究極奥義同士がぶつかり合って……それから……」
リュウは、記憶を
ルイに言われて、戦いのシーンが甦って来た。
確か、お互いに禁断の技を使い、その後は分からなくなっていた。
「うん、僕はしっかり見ていたよ。リュウ君は勇者としての使命をバッチリ果たした。見事に悪の権化、魔王を倒したんだぞぉ、えらい、えらい」
「そう……なんですか?」
「ああ、そうさ。僕がお願いした仕事を、リュウ君は立派に完遂した。結局、君はね、魔王との戦いで相討ちとなったんだ」
「え? 相討ち……だったんですか? くっそ~っ! 勝ちたかった!」
リュウは、悔しそうに呻いた。
散々見た、魔王の「あかんべーする」憎たらしいイケメン顔が、リュウの脳裏に浮かんだから。
「うん、残念! もうちょい技を繰り出すタイミングが早ければ勝てたのに惜しかったね~、うん、ホントに惜しい」
「でもルイ様……今だから言いますけど……」
「何、今だからって?」
「ええっと、あの技は使う時、だいぶ恥ずかしかったんですけど……大きな声で叫ばないと、ちゃんと発動しないなんて、酷いですよ」
「そうお? 悪くない名前だと思うけど、最高最良聖光救済天撃って」
「う~ん……そうですかね」
「凄く良いよ! だって僕、一日もかけて一生懸命考えたんだよ」
「あの、一日もって……まあ、良いか。ちなみに話は変わりますが、俺、死んでないのなら、また修行して、もっと強い勇者になります」
「ははは、確かに死んでないから、また頑張れ!」
ここで、リュウは「ハッ」とした。
肝心の事を、聞き忘れていたからだ。
たとえ相討ちとはいえ、自分はしっかり任務を完遂した筈。
「あ、そうだ! ルイ様! 俺との約束……守って頂けますか?」
「うん! 神様はしっかり約束は守る。大丈夫! リュウ君の奥さんと子供には大きな加護を与えておいたよ~ん」
「よ~んって、軽いっすね……まあ、良かったです。俺、その為に頑張ったんですからね……俺の家族を絶対に幸せにして下さいっ! お願いしますよっ!」
「うふふ、大丈夫! そっちはノープロブレムさっ」
「良かった!」
「うん、それに追加情報」
「追加情報?」
「リュウ君の奥さんって、君に凄く、べたぼれなんだね。君が死んだから、もう一生結婚しないってさ」
「な? あいつ、お、俺に義理立てしなくても良いのに……」
「うふふ、大丈夫。君の奥さんの意思は鋼鉄のように固い。それに娘さんもさ」
「お、俺の娘が?」
「うん! リュウ君はあっちで、ちゃんとしたお葬式をしたのに……パパはいつか、絶対に帰って来る! って……かた~く、信じてるみたいだよ」
「…………」
リュウは、思わず「じいん」と来て言葉を失う。
一生結婚しないと決めた妻、そして死んだ自分の帰りを、ひたすら待っている娘が
元の世界に残して来た大事な家族が、リュウにはとても愛おしくてたまらなかったのだ。
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