クソッたれなヒーロータイム

モノクロウサギ

第1話 プロローグ

──両親が泣いていた。泣き崩れていた。


『っ、何で……!! 何でアイツが死ななきゃならないんだよ……!?』


──一つの遺体の前で。冷たくなった弟の前で。


『……彼は英雄だった。海斗君がいなければ、何百、何千人が命を落とした』

『ふざけんなよ! ふざけんなよ……!! それで自分が死んでちゃ意味ないだろ!! 英雄なんて、ヒーローなんて言葉で誤魔化すなよ!!』


──弟はヒーローだった。まだ小学生の身でありながら、人類の脅威であるモンスターと戦う役目を背負っていた。


『何でアイツがボロボロにならなきゃなんないんだよ……!! 何で死ななきゃならないんだよ!! 精霊に選ばれたからって、アイツは俺の弟なんだぞ!? まだ小さい子供だったんだぞ!!』

『私たちとて苦渋の決断だった……!! 子供を死地に向かわせるようなことはしたくなかった!! それでも、あの場にいたヒーローは海斗君だけだったんだ!!』


──現代ではモンスターの襲撃は事前に察知される仕組みになっている。察知した段階で市民を避難させ、事前にヒーローを待機させている。だがどういう訳か、そのモンスターは予兆もなく出現した。弟が学校の遠足で訪れていた遊園地に突然現れたという。


『それもおかしいだろ!? 大人はどうしたんだよ!! 平日の遊園地だからって大人だっていたはずだ! 何でそいつらは助かってんだよ! 何で小学生のカイトに全部背負わせたんだよ……!!』

『仕方ないんだ。仕方ないんだ……!! モンスターと戦えるのはヒーローだけだ! だからあの状況では、幼い海斗君にしか任せられなかったんだ!!』


──弟は果敢に戦ったという。幼くヒーローとして未だに発展途上の身でありながら、逃げ惑う人々の盾となってモンスターを引き付け続け。ズタボロになっても歯を食いしばって戦い抜き、応援のヒーローがやってくるまで耐えてみせたという。


『海斗君のお陰で、死者も負傷者も最低限で済んだんだ』


──代わりに弟は命を落とした。十歳の若さでこの世を去った。


『それが何になるんだよ……! 見ず知らずの人が助かったところで、何も嬉しくないんだよ!! 俺は海斗に生きててほしかったんだ!!』

『陸斗君! それは、それだけは言っちゃいけない……!! 海斗君の偉業を、兄であるキミが否定なんてしてはいけない……!!』


──偉業。ああ、確かに弟のしたことは偉業なのだろう。まだ幼い身でありながら、命を懸けて多くの人々を救ったのだ。それは正しくヒーローの鑑。誰もが弟を賞賛し、その死を悼んでくれるのだろう。


『それでも……! それでもそんなの……!!』


──だがそれがどうしたと言うのか。それが救いと納得しろとほざくのか。例え多くの命を救ったのだとしても、肝心の弟が、俺たちの大切な家族は救われなかったというのに。


『ふざけんなよ……。ふざけんなよ……!!』


──力があるというだけで、守られる立場にいるはずの子供が殺し合いの矢面に立たされる。なんて狂った世界なのだろうか。


『……じゃあカイトは、誰が救ってやれたんだよ……』


──助けを求めた民衆を救うのがヒーローならば。狂気の世界に身を置く彼らは……。

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