栄光あれ!

川野笹舟

栄光あれ!

 俺は芸人だ。……売れない、芸人だ。


 相棒のタケシとコンビを組んで、かれこれ五年は試行錯誤しているが、まったく売れない。


 でもまだ諦めてはいない。

 諦めなければいつか大統領にだってなれると思っている。

 まぁ、俺がなりたいのは芸人一択だが。


 とにかく、今も、俺のせまい部屋で、タケシと二人、顔を付き合わせて新しいネタを考え中だった。

 年末に開催されるコントの大会に出るため、渾身のネタをひねり出そうとしていた。


 タケシが真面目な顔で言った。

「チンポでピアノを弾くっていうのはどうやろ?」

 俺は飲みかけていた水を噴き出した。あわてて畳を拭いた。

 タケシは時々天才的なネタを思いつく。チンポでピアノ。最高だと思った。


 しかし、さすがに客前でやるのは難しいので、俺は突っ込んだ。

「過激すぎるやろ。”ペニーちゃん”がお客さんに見えてもたら一発アウトやんけ」

「ピアノってでっかいやろ? 隠れる隠れる」

 と、タケシは自信満々に適当なことを言い始めた。

 俺は一番重要な問題について指摘した。

「そもそもピアノなんか持ってへんわ」

「買えばえぇやん」

 そう言いながらタケシはさっそくスマホでAmazonのサイトを検索し始めた。


「お、あった、ほれ」

 タケシはそう言いながら、俺の目の前にスマホを突き出してきた。

 見てみると、なるほど、俺たちが腰にぶらさげている”マラカス”がちょうど隠れそうなサイズの電子ピアノだった。

 チョイスは良い。しかし、値段は、

「高っ! 十万円て、無理やん。知ってたけど」

 大会で優勝でもしなければ元が取れない値段だった。


「ほな、これは? 安いで」

 そう言いながらタケシは、またしてもスマホの画面を見せてくる。

 どれどれ、と言いながら見てみると、そこにはおもちゃのピアノが映っていた。

 子供用で、鍵盤の端から端まで30㎝くらいだろう。

「ちっちゃ! 出てまうわ! 俺のじゃじゃ丸なピッコロがポロリしてまうわ」


 その後、別のネタも色々と考えたが、なかなか面白いと思えるものは出てこなかった。


 時間をみると二時間たっていた。

「あかん、頭まわってへんわ。おやつにしよう」

 俺はそう言って休憩を提案した。

「せやな」

 タケシも伸びをしながら同意した。

 そしてボキボキと体を鳴らしながら、

「ジャンケンで負けたほうがコンビニに買い出しに行こか」

 と言った。


「ほい、最初はグー。ジャンケン」

 ポン。俺が勝った。


 タケシは自分で提案したくせに面倒くさそうな顔をしながら、

「はぁ……、ほな行ってくるわ。何食べたい?」

 と、たずねた。


 俺が今一番食べたいものは――


「プッチンプリン」


 なぜだかわからないが、それを食べると、何もかもすっきり解決する気がした。

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