お笑いは世界を救うか?

たつみ暁

お笑いは世界を救うか?

「お笑いなどこの世に要らん」

 漫才部に現れた生徒会副会長は、腕組みして、にこりともせずに言い放った。

「くだらん話で笑うなど、エネルギーの無駄だ。無駄な二酸化炭素を吐き出して、地球を汚すだけではないか」

 さすがに全お笑いをバカにしている。あたしはムッとして言い返す。

「あーじゃあお言葉ですけどねー。そうやって、無駄だって言ってるあんたの吐く息も無駄無駄の無駄、ですね? 呼吸を止めて一秒でも早く黙ってくださいー」

「私の言葉を無駄だと言うか? 私の言葉は生徒会長の言葉にも等しい。つまりこの学園の意志! それを黙れとは、学園に対する反逆としか言いようが無い!」

「うっわー。あんたの言葉が学園の意志とか世も末だわ。生徒会全員首すげ替えた方がいいんじゃないの? 存在ごと消えてください」

「ああ言えばこう言う! さすが舌だけは器用に回る、堕落した連中らしい言い様だな!」

「堕落してんのはそっちじゃないの!? もっと他に学園の為に出来る事あるでしょ!?」

 ごりごり額をすり合わせて、ガンを飛ばし合う。

 そのかたわらであたしたちのやり取りを、聞き流していたかのように思えた後輩が、「ははっ」と笑声をもらしながらこちらを向き、クイッと眼鏡を押し上げた。

「先輩、副会長と息ピッタリじゃないですか。いっそ二人で組んで、今度の文化祭でかけ合いすれば良いのでは?」

「「ッハアーーーーッ!?」」

「ほら、ピッタリ」

 あたしと副会長の裏返った声を聞いて、後輩は更に笑いながらのけぞる。

「最近、不穏な話題ばかりで、みんなの心も荒んでいるでしょう? 先輩と副会長の力で、笑顔を取り戻してくださいよ。学園を救ってください」

「だっ、誰が」「……いや」

 誰がこんな奴と。言い捨てようとしたあたしの発言は、副会長の意外な反応に遮られた。

「成程な。身をもって体験する事で、有用性が無い事を証明するのも、ひとつの真理だ。やってやっても良いぞ」

「ッハアーーーーッ!?」

「それとも、私にあれだけ啖呵を切っておいて、学園を救う自信が無いのか?」

 何でいつの間に学園規模の話になっているの。両手で顔を覆って崩れ落ちたい気分になったけど、奴はニヤニヤ見下ろしてくるし、後輩は後輩でやけに楽しそうだし。

「……わかったわよ」

 漫才部存続の為にも、お笑いが人々の心を潤す事を見せつける為にも、これはやるしか無い。

「あたしについて来られるなら、ガンガンツッコミ入れなさい。容赦はしないわ」

「望むところだ」

 副会長がニヤリと笑って、それから、挑戦的に目を細める。

「そちらこそ、私の切り返しに泣き言を言うでないぞ、相棒?」


 これが、将来まで続く、お笑いで世を豊かにする為の、あたしの挑戦の始まりだなんて、この時のあたしは勿論、夢にも思っていなかったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お笑いは世界を救うか? たつみ暁 @tatsumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ