夜武士


逆真言とは真言を逆に言う事で呪詛にするという仏教の外法であるが渋谷を逆さに読めばやぶし、つまり、夜武士やぶしだ。


表社会の流血の対岸の火事を見れない者の世界、裏社会のアウトローが街の暗部であり、暗黒面、流血でむせて、燎原の火りょうげんのひの火でむせる場所。


一人の父親は元ヤンであった。


だが自分の子供にはその道とは無縁であって欲しかった、違法ドラッグは禁忌的だ。


「薬は駄目絶対」


薬を反対から読めばリスクである。


剣道のための場所がある。彼の家は古風な武士の末裔である、だが娘は型破り‥‥‥という破天荒である、つまりギャルである。


ギャルの反対はルヤギである。


ルヤギの対義語であるのはヤンキーで、ヤンキーの対義語は太歳たいさいであり、その対義語がギャルとなっている。


山手線のような輪の理のようであった。


「親父~それは今時ナンセンスだよ」


妹の兄とは弟の姉という対義語がある。


夜武士にギャルがいる事は珍しくない、何故ならば、それは虚数空間であるからだ。


虚数空間の反対は実数空間である。


そして組み合わさった複素数は半陰陽アンドロギュヌスのようである。


両性具有アンドロギュヌス


頂上氷の女王、1912年。チェザーレ・サッカッジの代表的な作品で、山の頂上はこの両性具有の人物で表されている。彼女を下から見ると女性のように見えるが、顔を見ると男性のように見える。



日本神話の女神天照大神は中世の書物『日諱貴本紀』で両性具有神として描かれている。


原初の世界あるいは人間が両性具有だったとする神話は世界各地に存在する。


両性具有は哲学や錬金術やグノーシス主義などでもシンボリズムとして取り上げられる場合があった。


ユング派のジューン・シンガーは『男女両性具有』の中で、男女両性具有は人間の心理に固有な元型であって、それはあたかも卵の黄味と白味が殻の中に一緒に閉じこめられている状態であると述べている。つまり男女両性具有とは男性の中に「女らしさ」が、女性の中に「男らしさ」が存在している状態であり、いわゆるユングのアニマとアニムスの両方がある状態であるというのである。


この男女両性具有の概念は1970年代に、固定的な男女観に対するウーマン・リブ運動などによって注目され始め、実証的な性役割研究において扱われることになった。


夜武士は太陰たいいんの中に潜む。


そんな彼女に父親は言う。


「部屋が汚いぞ、片付けをしよう」


いや、臭いのは彼女であった。


中国ではあの世を泉界と言う、日本では黄泉、それは死の世界は水中にあるとされる神話、沖縄ではニライカナイである。


ここはまるで彼岸のようでもある。


「お前、風呂入っているのか?」


彼女はとても臭かった。


とてつもなく歪に死んでいるような‥‥‥‥


「煙草だよ」


灰皿が部屋の中心に置かれていた。


銘柄は「アシッドゲヘナ」。


誰もが聞いたことがないだろう。


「ならいいや」


父親はそれを気にしないことにした。


部屋の中にあった鏡が彼女のいるベッドの前に置かれてその中の彼女はルヤギだった。



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