第10話 冒険者登録


「よう。お疲れさん!」

「あ、グランさん!お疲れ様です、何か御用ですか?」

「あぁ。冒険者登録をしたいんだが、部屋と道具は空いてるか?」

「今確認しますね、少々お待ち下さい」


レグノワは冒険者登録するために、グランと共に冒険者ギルドに来ていた。


「お待たせしました!こちら、登録道具と部屋の鍵になります」

グランが銀色の四角いケースと鍵を受けとる。

「ありがとう。…部屋は、2号室だな。行こうか、レグノワ君」

「はい」

レグノワは2階に向かうグランの後について歩く。

「2号室ってことは、他にも部屋が有るんですか?」

「あるぞ。依頼主と話し合ったり、今回みたいに冒険者登録したりするのに必要だからな。部屋は基本的に鍵がかかってるから、使いたいときは受付で鍵を貰うんだ」

「なるほど」


「この部屋だ」

グランが『2号室』と書かれた扉の鍵を開けた。

「さ、そこのイスに座ってくれ。登録の前に冒険者ギルドの説明をするからな」

レグノワが言われた通りにイスに座ると、グランが向かい側のイスに座った。

「えー、冒険者ギルドは───」


★☆★☆★

・各地の町や王都には必ずギルドがあり、依頼はどこでも受けられる

・冒険者には実力や完遂した依頼数によって、下から新人→下位→中位→上位と階級がつけられる

・新人冒険者の内は引率がつき、ギルドが認めた中位以上の冒険者と一緒に依頼を行わなければならない

・引率の冒険者が一緒に行けないときは、強制的に休みになる

(半月以上の長期にわたる場合は代わりの引率がつく)

・新人期間は短くても半年

・特殊な事情がない限り、登録した場所で半年間は新人冒険者として活動すること

・新人期間が終わったうえで、引率の冒険者に認められると試験(採取任務2回と小動物·魔獣の討伐任務各1回)が受けられる、クリアすると下位冒険者として認められる

・登録した人間には特殊な金属で作ったプレートが配られる

・新人は水色、下位は銅色、中位は銀色、上位は金色

・プレートには登録者の情報が刻まれる

・表に名前、所属していればパーティー名、冒険者ギルドのマーク、新人のみ引率の冒険者の名前

・裏に完遂した依頼数(階級や種類ごと)

・各ギルドに必ず設置されている専用の装置で調べると、登録した土地名、パーティーに所属していればメンバーの名前、失敗した依頼の数(階級や種類ごと)が表示される

・窃盗や詐欺、殺人など何かしら罪を犯すとタグが赤く染まり、各ギルドに通報される

・プレートを失くした場合は再発行でお金がかかる

★☆★☆★


「とりあえず説明は以上だ、何か質問はあるか?」

説明を終えたグランがレグノワを見つめる。

(新人は半年間か…活動場所が決まってるのも、引率がつくからだろうな)

「えーと…今は特にありません」

「じゃあ、この紙に必要事項の記入を…」

グランが不自然に言葉を切った。

「あー…すまん、レグノワ君。文字は書けるか? 」

「…書いたこと無いです」

(そういえば読めないって言ったな)

「俺が代わりに書くか、手本を書き写すか…どうする?」

「うーん、自分で文字を書いてみたいです」

「わかった。必要事項を教えるから、答えてくれ」



★☆★☆★

 名前:レグノワ

 年齢:14

 誕生月:4の月

 出身地:アシュテ村

 主な使用武器:ボウィナイフ

 スキル:探知探索 鑑定

★☆★☆★



「スキルの欄に書くのは探知探索と鑑定だけで良いぞ。この2つは珍しくないスキルだ。隠密も珍しくないが犯罪に巻き込まれやすいから書かない方がいい」

グランに教わりながら、登録用紙に書き込んでいく。


「書けました!」

「どれどれ…よし、よく書けてるな!」

レグノワは初めて書いた文字を誉められて、嬉しくなってしまう。

「登録用紙も書いたし、最後はこれだ」

グランから渡されたのは、親指くらいの大きさの水色のプレートと、小さなボタンが付いているペンの様なものだった。

「そのプレートが説明したやつだ」

「へぇ…」

水色のプレートには、冒険者ギルドのマーク以外には何も書かれていない。

「ペンみたいなやつは、ボタンを押すと先端から細い針が飛び出る仕組みになってる。指先に先端を当ててボタンを押すんだ」

「え…」

レグノワはペンの様なものを見つめる。

(ちょっと怖いな)

「はは!大丈夫だぞ。音は大きいが、少しチクッとするだけだ。針を指して少量の血をプレートに付ければ、登録は完了だ」

「……」


(えい!)

レグノワは思い切ってボタンを押した。


 バチン!!


「わ!!」

音に驚いたレグノワだったが、痛みはあまり無かった。

「よし、血をプレートに付けてくれ」

グランに促され、プレートに血を付ける。


すると、プレートがパァッと光った。

「おぉ…」

光が収まると、プレートには文字が刻まれていた。

「内容を確認させてくれ」

「はい」

グランにプレートを渡すと表と裏を確認して、何度か頷いた。

登録されたな」

グランはプレートをレグノワの手のひらの上に載せる。

「失くさないようにな」

「はい!」

グランにならうように、レグノワもプレートの表と裏を確認すると、自分の名前のほかに引率冒険者に『グラン』の名前が刻まれていた。

(ちゃんと、ってコレのこと?いつの間に?)

「ん?」

グランに視線を向けると、にっこりと笑い返された。

「そうだ、プレート専用のケースがあるんだが、どうする?」

グランが見せてくれたのは、柔らかい保護フレームに首からかけられるようにチェーンが付いたものと、手首に付けられるようにベルトが付いたものの2種類だった。

「プレートと同じで、最初の1つは無料で2つ目からは有料だ」


レグノワは少し悩んでチェーンのついたものを貰うことにした。

「チェーンの方にします」

「チェーンの方だな。ほれ」


受け取った保護フレームをプレートにつけてチェーンを首にかける。

「うん、良い感じだな」

グランを見ると、嬉しそうに笑っていた。


「さて、これで登録は終わりだ。今日は慣れないことばかりで疲れただろう?明日も教えることがあるから、今日はこれで解散にするか」

「分かりました」

「明日は、そうだな…今日と同じくらいに迎えに行くよ。また明日」

「はい。今日はありがとうございました」


部屋を出て1階に降りると、依頼帰りらしい冒険者達が増えていた。



ギルドを出ると、空は朱くなりはじめていた。

(確かに疲れたなぁ。それに、お腹すいた。屋台通りに行こう)

グランと一緒に行った屋台通りに行くとだいぶ賑わっていた。

メニューと値段を確認しながら歩いていく。

(んー、いい匂いする)

レグノワは、野菜と肉の串焼きを見つけた。

(値段は…1本9メルか。安い、のかな?刺さってる具も大きいし、2本は多いかも)

串焼きを1本買ったレグノワは、近くの飲食スペースに行く途中に数種類のお茶を売っている屋台を見つけた。

(あ、あのお茶。ばあちゃんがよく淹れてくれたな)

懐かしさに引かれ、お茶も買ったレグノワは空いている飲食スペースのイスに座った。


「いただきます」

串焼きの一番上に刺さっている、少し焦げた野菜を食べた。

(おぉ、美味しい。少し歯ごたえが残ってて、ほんのり塩気と野菜の甘味がいい感じ)

ゴクリと野菜を飲み込んで、お茶をひとくち。

(はぁ、このお茶も美味しい。でも、種類は同じはずなのに、ばあちゃんが淹れたのとは少し違うなぁ…やっぱり人によって味変わるのかな?ばあちゃんのお茶、また飲みたいなぁ)

寂しさを誤魔化すように、また串焼きをかじる。

(ん、お肉柔らかい)

レグノワは賑やかな屋台通りを眺めながら、ひとり、串焼きを食べ進めた。


「ごちそうさまでした」

ゴミ箱に串を捨て、お茶の器を屋台に返したレグノワは屋台通りを出た。

(美味しかったなぁ、串焼きもお茶もまた買おう)



レグノワは初日に入った共同入浴場に寄ってから、広場のテントに戻った。

「はぁー…」

テントの中に置かれたランプをつけて、息を吐く。

(疲れたぁ…あー、そうだ)

のそのそとテントから出たレグノワは、広場の水飲み場で小さめのタオルを濡らして固く絞る。

テントに戻って、レッグポーチから今日購入した装備品を取り出した。

(入浴場で脱いだ時、ちょっと気になったんだよね)

並べた装備品は少し汚れていた。

(大事に使いたいから、キレイにしとこう)

濡れタオルで汚れが気になった所を拭っていく。

(確か、大体の装備品は濡れても大丈夫って言われたな。…雨に濡れることもあるから、当たり前か)

最後にテントの外でブーツの土をはたいてから、拭っていく。

(よし、これでいいかな)

レグノワはキレイになった装備品を眺めて、満足気に頷く。


「ふわぁ…ぁふ…」

(あー、眠い)

欠伸が出たレグノワは寝袋に潜り込み、ランプを消した。


 チャリ


(ん…)

身動ぎした時、首にかけてあった冒険者のプレートが小さく鳴った。

静かな暗がりの中、プレートを触る。

固い金属がレグノワの体温で温くなっている。


(僕が、冒険者かぁ)


意識がだんだん遠くなっていく。


(2人は、どこに…いるのかな…)



(はやく…あいたいな…)

 


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