乙女ゲームの世界に転生?! 王子が私で、悪役令嬢が‥!

のあ きあな

第1話 プロローグ

「ねぇ、リリィ。やっぱりリリィにはこの髪型の方が似合うと思うのよ。」


お母さんの髪の毛を切りながら、お父さんが言う。

因みにちなみににお母さんの名前はリリィではなく、百合江ゆりえだ。

お父さんは美容師で、暇さえあればゲームをしていない暇な時間はお母さんの髪を弄っている。

まぁ、髪だけじゃないけれどね。

このラブラブ過ぎる夫婦を見ていると、砂糖を吐きそうになる。


平均よりかなり細身にお父さん。

心が女の子寄りで、自分を華奢に見せたがるんだけど、筋肉はしっかり付いていて、喧嘩すれば強い。

お母さんを守りたいがために、鍛えてしまったらしい。

子供の前でも気にすることなく何度も女装に挑戦するも、いくら華奢に見えても骨格はしっかり男なので、女装が似合わない。

自分をより女らしく見せるために美容師になったっていうけれど、その夢は未だ叶っていない。


お母さんを守るために鍛えたってところは、尊敬してるよ?

だから鏡の前で裸になって、何時間も泣かないで?

ちょっと、邪魔だからね?


標準よりかな~り幼く見えるお母さん。

小柄なせいだけでなく、童顔のせいで、17歳の私と並んで歩いていると、私がお姉さんに間違われる。

16歳の弟と並んで歩いていても、言わずもがな。

たまに中学生に間違われて、補導されそうになるため(平日昼間のお買い物時は特に!)、写真付き身分証明書は常に持ち歩いている。

見た目は中学生に見えるアラフォー。中身は非常に男らしい、剣道の達人。


姉弟とも、この遺伝子は受け継がれなくて良かったと、心の底から思っている。


こんなラブラブ凸凹夫婦の出会いは、オフ会。

押しの乙女ゲームのオフ会で、意気投合したんだって。

頻繁に会って一緒にゲームをしている内に、日帰りが一泊になり、一週間になり、一緒に暮らし始め、そのまま結婚してしまったらしい。


そんな両親に、物心ついた時から、乙女ゲームの素晴らしさを説き続けられ、与えられるおもちゃは乙女ゲームのみ。

乙女ゲームやり込みの賜物か、幼稚園の頃には、うちが普通じゃないってことが分かるようになった。

気付いたのが幼稚園児の時で良かった!


弟も幼稚園児の時に我が家の常識が非常識であることに気付いた。

それからは、子供たちに乙女ゲームを強制的にプレイさせる非常識な両親との関係を崩さないように、姉弟2人で戦ってきた。


「「私(俺)たちは、一般常識を忘れない!!」」


を合言葉に。


「「夫婦2人でやってろよ!!」」


心の中で切に願いながら。



そんな神鳥かんどり杏蒔荏あんじぇ17歳、神鳥かんどり焔寿えんじゅ16歳の冬。


珍しく長めの休暇を取ったお父さんが、家族で温泉旅行に行こうと言い出した。

連休には嬉々としてお母さんとゲームをしているお父さんが・・?と思ったら、結婚20周年記念の家族旅行だという。

昨今の社会情勢を考えるとね。

車で行ける範囲への家族旅行が精一杯だったみたい。


それでもゲーム抜きでの家族旅行に、いつもクールな男ぶっている焔寿えんじゅもニコニコだ。

なんだかんだ言いながらも、焔寿えんじゅも私も家族が大好きだ。


遠足前夜の小学生のように、なかなか寝付けなかった。

当日の朝、同じように寝不足の焔寿えんじゅと顔を見合わせて、大笑いした。


お父さんもお母さんも、朝から大笑いしている私たちを見て、笑っていた。


そんなしあわせな朝が、最期になるなんて・・・




お目当ての温泉は、山奥にあった。


片側一車線のセンターラインが実線の道路は、右手は切り開かれネットが張られた状態の山肌、左手はガードレールの向こうは崖という、整備はされているけれども、道幅に余裕がなく、少し通るのが不安になるような道路だった。


先の見えない大きなカーブを、減速して進んでいたお父さん。


カーブを曲がると、交通ルールを破り、タンクローリーを追い越そうとしている、反対車線を走る4トントラックが見えた。


逃げ場のない道路。

目の前に迫るタンクローリーと4トントラック。


「あ、これ絶対助からない…」


そう思いながら、衝撃に備えて、私は目を閉じた。

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