縁起の良いナイトメア
水曜
第1話
あなたは縁起を担ぐ方だろうか。
私は担ぐ。
ものすごく気にするほうだ。
朝のテレビ占いで一位だったら嬉しいし。最下位だったら気分最悪だ。
だからこそ、いつも悩んでいる。
悩み。
人間誰にだって悩みの一つや二つあるものだ。
もちろん、私にだって悩みがある。
私の最大の悩み。
それは夢見が悪いことだ。
いつも見る夢は悪夢ばかり。
たかが夢じゃないかと侮ることなかれ。
交通事故に遭う夢。
崖から転落する夢。
殺人鬼に襲われる夢。
などなど。
大抵の悪夢は経験してきた。
おかげで目覚めるたびに、私の心身はいつも疲弊しきっている。
飽きもせず悪夢が続くものだから、気が休まることなどないのだ。
何より。
悪夢ばかり見るなんて縁起が悪いこと、ことの上ない。
そういったことを人一倍気にしてしまう性質なせいで、一年通してずっと憂鬱だった。
「はあ。今日くらいはもっと縁起の良い夢を見たいな……」
切実な願いとともにこの日も眠りに就く。
案の定というべきか、私はまたろくでもない夢の世界へと誘われた。
気が付けば、私は日本一高い山である富士の山頂にいた。
断っておくと、私は高いところが苦手だ。登山などしたこともないし、したいとも思わない。
三千七百七十六メートルの絶景も、私にとっては恐怖の対象でしかない。
慌てて下山しようとすると、巨大な鷹が飛んできた。
獲物に対する敵意に満ちた目。真っすぐこちら目掛けて、鋭い爪を振るわんとする。
私は必死になって逃げた。
逃げて、逃げて、とにかく逃げて。
何とか鷹を振り切ったときには、完全に道を見失っていた。
遭難したときは無闇に動くのはよくない。
助けが来るまで待機していようと、私は自分の荷物を漁った。
リュックに入っていた食料は何故だかいっぱいの茄子ばかり。
私は高いところも苦手だが、茄子も同じくらいに嫌いだった。味も食感もスポンジを食べているようにしか感じない。
たが、食べ物は茄子しかない。
生き残るためには、他に道がなかった。
一、富士山の上で。
二、鷹に襲われて。
三、茄子を食べる。
絶望的な三重苦を存分に味わい尽くしたところで、ようやく私は悪夢から目を覚ました。
「はあ。また縁起の悪い夢を見てしまった……」
体中が汗びっしょり。
朦朧となりながらも起き上がると、ちょうど外には見事な初日の出が昇っていた。
縁起の良いナイトメア 水曜 @MARUDOKA
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