4/8 珍解答・壁がぶつかって来たんだよ。
田代仁美28歳の本日の保健室の予定は、9時から内科検診。
学校医の先生が8時50分に来校予定。
トップバッターの6年1組の子供達が8時55分にはスタンバイを開始する。
現在8時40分。
―――後15分で慌ただしくなる。
「名簿よし、ボールペンよし、ライトよし、聴診器を拭く綿花よし、手袋よし、消毒液よし・・・」
口に出して円滑に検診が行えるように最終確認を声に出しながら行う。
基本的に800人以下は保健室の先生は学校に一人しかいない。
っという事は、円滑に行けば自分の成果。反対に、円滑にいかない場合は自分のミスであり不手際だと考えている。
「よし。後は、向かい打つだけね!」
もはや、健康診断は保健室の先生にとっては戦いだ。
自信満々にふぅーっと息を吐いた時だった。
「うわぁーん!」
号泣する声に仁美はどんなご用かしら?内科?外科?
ドキドキしながら、振り返ると1年1組の担任である増田麗子に連れてこられたのは、1年一組の西山透子。
「どうしたの?」
担任と来るときの怪我は、高学年は酷い事が多いく身構えてしまうが。
低学年はそんなに身構えることはしない。
「お椅子に座ろうか」
保健室においてある長椅子に誘導する。
「自分で頑張って、田代先生に言おうか」
担任は優しく西山に言う。
「透子ちゃんが、透子ちゃんが歩いてて。・・・ぐすん。・・・一回転したら、壁が・・・ぶつかって来た」
「そっかぁ。痛かったね」
いやいやいやいや。
壁は止まってるよ。
透子ちゃんがぶつかったんだよ。
止まってる壁がぶつかってきたか。
ふふふ。
そっかー。自分が回ってるのに、壁がどいてくれなかったのか。
意地悪な“壁”だね。
心の中でそんな可愛い怪我の内容にクスクス笑う。
「どこをぶつけちゃったかな?」
田代は冷凍庫から氷を取り出すと、西山の前に膝をつき腰を下ろす。
「ここ」
彼女はおでこを指さす。
「そっか。大事な大事な頭をぶつけてしまったんだね。痛かったね」
「うん」
「きっと、壁も痛かったと思う」
「・・・謝る」
「偉いね。謝れるんだ!」
「うん」
子供は自分が中心に世界が回っているような表現をする。
それは学年が上がると同時に少なくなっていくし。
子供達には悪意がない。
なんで、壁にも謝るという発想になる。
可愛いなとクスクス笑うと、田代は廊下で姿が見えなくなるまで見送った。
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