小旅行
朝7時、新横浜のホームに立つ。新幹線に乗るのなんて、高校の修学旅行以来だった。周りには眠そうな顔をしたサラリーマンや、旅行に行くらしい家族の姿がちらほらとある。風が少しひんやりとしていて肌寒かった。
ホームに滑り込んできた新幹線に乗り込む。書かれている番号を何度も確認して席に着いた。指定席に座るときはいつも自分が間違った場所に座っていないか心配になる。
ここから広島までは3時間半。そこから乗り継いで1駅。遠いところに住んでいると思っていた彼の職場には、案外簡単に着いてしまう。
ベルが鳴って、列車が動き出した。窓の外の景色が次々と変わっていく。車両は静かで、非日常的な空間が、私の心臓を高鳴らせた。
突発的に思いついた遠出だったけれど、なんだか上手くいく気がする。らろあはきっと歓迎してくれて、それで、どうして配信頻度が減ったのか教えてくれる。
今日も彼のSNSは動いていない。昨日も配信はなかった。もしかしたら何か事情があって、配信に時間を割けない状況なのかもしれない。もしもそうなら、私が相談役になればいい。
ぼんやりと窓の外を見ているうちに眠気が訪れた。昨日家に帰ってから新幹線の予約や、電車を調べているうちに時間が遅くなってしまったから、今日はほとんど寝ていない。椅子にぐったりと背中を押し付けて目を瞑る。車内販売のお姉さんの声が、少し遠くから聞こえてきた。
何度かアナウンスのたびに起きて、気づけば岡山まで来ていた。広島まではあと30分。遠くに来たな、とは思うけれど、窓の外を見るだけではここがどこかわからない。カバンに入れっぱなしだったペットボトルを取り出してのどを潤す。
車両の人は減っても増えてもいなかった。私が寝ている間に入れ替わったりもしたのだろうけれど、乗った時と変わらずに静かだ。
少し眠ってすっきりした。ポケットからスマホを取り出す。画面には、彼からのメッセージもSNSの更新通知もありはしなかった。
広島に着く、とアナウンスがあり、荷物を持って立ち上がる準備をした。前の席の人はごそごそと広げた荷物を片づけているけれど、私には片づける程の荷物がない。ちょっと出かけるくらいの格好で出てきてしまった。
ゆっくりと停車して扉が開く。朝に比べて、ホームには随分人がにぎわっていた。慣れない場所の駅をきょろきょろしながら歩く。周りから聞こえてくる方言が新鮮だった。
スマホとにらめっこしながら次に乗る電車へたどり着き、何度も表示を確認して乗る。見慣れない車両に違和感があって、挙動不審になってしまった。1駅だし、と思い扉の横に立つ。
電車が動き出して、すぐに目的の駅へ着いた。ちらほらと人が歩いている以外には何もない。スマホでマップを開いて、きょろきょろとしながら歩きだす。
何度か道を曲がって、大きな道路を渡ると、やけに駐車場の広いモールが見えた。あそこだ、と分かった瞬間にスマホをポケットに仕舞い、小走りにアスファルトを蹴る。
土曜日なのもあって、車が多かった。家族連れの隙間を縫って店内に入る。さっきまで歩いていた道からは想像もつかないくらい人が多い。普段人混みに行かないから、歩くのにも苦労する。
フロアマップを見つけて、ゲームセンターの場所を探した。2階の1番大きいスペースだった。エスカレーターに乗り、そこを目指す。
バクバクと心臓が鳴っていた。こんなに人がいるなんて予想外だったから、もしかしたら忙しいかもしれない。迷惑かな、忙しそうだったら少し待っていようかな、と考えながら、エスカレーターを降りる。
電子音の響くうるさいゲームセンターの中に入ってらろあの姿を探す。広いだけあって、どこにいるのかわからなかった。
クレーンゲームの間をうろうろと歩いているうちに、黒い制服を着たらろあの後姿が見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます