2か月後
らろあとゲームをし始めて2か月が経つ頃には、ゲームの実力が彼をほんの少し上回るようになっていた。最初のころ、足を引っ張らないようにと片っ端から上級者の動画を見まくったのが功を奏したのだろうか。
2か月も彼に誘われてゲームをしていると、一緒にプレイしてもらっているというより、私がらろあに付き合っているという感覚になってくる。我ながら傲慢な考え方だと思うけれど、そうでもなければ寝不足の中何時間もゲームなんてやってられなかった。
けれどそんな考え方をしているうちに、私はどうして別に好きでもないゲームをやっているんだろうという気持ちになる。どんなに考えてもそれは最終的にらろあがいるから、という理由になるのだが。
らろあは最近他の配信者ともコラボするようになった。最初、配信のタイトルに知らない名前が入っていた時はぎょっとした。彼とコラボした配信者も、らろあと同じくらいのフォロワー数で、気が合ったのか週に1回程度コラボしている。その人以外にも何人かの配信者がらろあの配信でコラボするようになった。
らろあが他の人とコラボする日は、私は通話に誘われない。大方配信が終わった後も話しているか、ゲームしているかなのだろう。最初こそ寂しかったけれど、今では睡眠時間が確保できてありがたく思っている。他の人とコラボする日は、配信さえ途中までしか見ないときもあった。
もう配信者とリスナーという関係ではなかった。ほとんど友達のそれに近い。でも彼はいまだに私の推しで、好きな人だ。どうしようもないくらい歪な関係になっている。しかしそれを歪だと認識しているのは私だけで、彼は私をただのゲーム友達だと思っているのだろう。それか私の好意の上に胡坐をかいているだけだ。
配信中はコメントを絶えず送信して、ギフトも投げる。私からギフトをもらうことに慣れてしまったのか、多少高い値段のギフトじゃないと大して喜ばなくなった。配信者としては最低な行動だと思う。けれど自覚があるのか、時々最低値のギフトでもはしゃいでみせる。滑稽でばからしいけれど、そんな彼にギフトを投げている私が一番ばかだ。
そうやって彼に貢いだ後に、彼と2人でゲームする。さながらホストのアフターだ。行ったことがないからわからないけれど。
未だに2人きりでゲームをすることの優越感に縋っている。彼のゲームに付き合っているという感覚になろうとも、それだけは薄れなくて、手放せなかった。
『るるちゃん、起きてる?』
早々に死んでしまって、半分眠った状態で彼のプレイを眺めていた。起きてるよ、と掠れた声で返事をする。画面にはチームが全滅したと表示が出た。机に放置していたコントローラーを手に取って、ホームへ戻る。
『もう寝る?』
ちらりと時計を見るともう午前3時になっていた。ゲーム中にうとうとしてしまうわけだ。らろあはまだやりたそうにしていたけれど、私の眠気が限界だった。大丈夫、と返事したら朝まで付き合う羽目になるかもしれない。
「ん、寝る」
『おっけー、おやすみ』
あっさりと通話が切られ、ゲーム音以外何も聞こえなくなる。カチカチとマウスを操作して、パソコンの電源も落とした。部屋が一気にしんとする。
ぐっと背を伸ばしてから立ち上がり、寝る準備をする。マグカップを洗い、歯を磨きながらスマホを開くと、通話アプリでらろあがまだオンラインになっていた。つけっぱなしにしているのか、他の誰かを誘ってまたゲームでもしているのだろうか。
らろあが他の配信者とコラボするようになってから、そんな風に彼のアカウントを見るようになった。見ていることがバレたくなくて、私はログイン状況を非公開にしている。
一方的に情報を見てもやもやするのも、勝手に想像してやっかむのも良くないとはわかっている。けれど、彼のアカウントを監視する手が止められなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます