第20話 偽証


「四月二二日は濃い霧がかかっていて遠くの空は見えませんよ?」


 法廷が静寂を包む。


『は!?』


 大佐達の顔が崩れる。


「いえ、ですからほら」


 僕は何かヒントは無いかと思ってチェックした、セツラ大尉とのメール画面を開いて公開した。


 そこには、今日は霧が濃すぎてレーダーを頼りに戦って面倒だった。ということが書いている。


「確かに第一中隊と第五中隊は受け持つ場所が違いますけど同じ第四大隊ですし、戦場は近いはずです。第一中隊の戦場だけ台風の目みたいに霧が晴れているはずがありませんよね?」


 大佐達が途端に視線を逸らす。


『え、いや……それはだな』


 言い訳を考えられる前に僕は畳みかける。


「あと二一日に大雨の中とおっしゃいましたが、その日は晴れですよ?」


 また法廷を静寂が包む。


「天気予報では二一日の日は雨になっています。でも予報ははずれて雨はもっと早くに、二十日の日に降ったんです。もしかして大佐達は視察なんてしていなくって、天気予報で雨なんだろうと思い込んで嘘をでっちあげたんじゃ」


『無礼な! この私が嘘などつくか!』


 口ヒゲの大佐が唾を飛ばしながら怒鳴った。


『先程のは言い間違えただけだ! 二十日だ! そうだ二十日だ! オホン。大事な法廷で言い間違えた事は私のミスだ。しかし人の言い間違いの上げ足を取り虚偽の証拠とするとは、あまりにも子供じみているぞ!』


「申し訳ありません。では霧のことはおいておいて、とりあえず二十日の雨の日に敵大部隊を見たのは間違いないと?」


 口ヒゲ大佐が、背筋をただす。


『うむ、その通りだ』


 僕はいけないとわかっていても、心のなかでガッツポーズを取る。


「すいません大佐、雨はちゃんと二一日に降りました。その雨が次の日に霧になったんです」


 大佐達はあごがはずれたように口を開けて凍りつく。僕は淡々と言葉を続ける。


「でも大佐はさっき、僕が二一日は晴れだと言ったら『いいや雨だった』と強く主張しないで『二十日と言い間違えた』と言いましたよね? 自分の目で雨を見たなら自信を持って僕に反論できるはずです。なのにそれをしないのは」


 僕は右手の人差指で、僕のメールボックス、さっき開いたセツラ大尉のメールが映った投影ウィンドウを差した。


「さっき僕がメールを見せたから、今度もメールがあると思った。物的証拠を突きつけられたら分が悪いと思って、退いてしまって、僕の発言に乗っかってしまったんですよね?」


 裁判長の視線が、ナミカちゃんを見下ろす。


「二階堂ナミカ交渉人。本当にこの三人は現地視察に言ったのですか?」


 水を向けられたナミカちゃんはしどろもどろだ。


「いや! え! はいそのはずで」


 ブツン

 大佐達の映る巨大投影画面が突然真っ暗になる。

 向こうが一方的に回線を遮断してきたのだ。

 それはこの場において、あまりにも解り易過ぎる回答だった。

 ナミカちゃんはおもしろい顔で凍りついたまま、氷像のように動かない。


「判決。第五中隊の要望通り、今回の補給物資。巨神甲冑用空対空ミサイル二〇〇〇発。反粒子二〇〇〇ミリグラム。量産型軍事甲冑アシガルの修理パーツ五〇機分。高機動型軍事甲冑センゴクの修理パーツ二〇機分のうち、ミサイル一五〇〇発。反粒子一五〇〇ミリグラム。アシガルの修理パーツ三〇機分。センゴクの修理パーツ一〇機分を至急する」


 ナミカちゃんは壊れたロボットのように振動して、全身を震わせる。


「まま負けた? サクに負けた? この私が……セツキでもない、セツキの腰ぎんちゃくに、愛玩ハムスターに……」

「あのナミカちゃん?」

「ふぎゅ~~~~~~!」


 ナミカちゃんは、目を回して倒れてしまった。


「ナミカちゃん!?」


 僕は慌てて駆け寄ろうとしたけど、サエコちゃんが僕の手を握ってくる。


「サク様」


 サエコちゃんはうやうやしい表情で僕を見上げると、


「お見事です」

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