第12話 調査方法

「「どうやって?」」

「へ?」


 僕は素になって目が点になった。

 ルイちゃんは呆れたように、


「それは指揮官が部下に『勝てる動きをしろ』と言うようなものなのですよ」


 サエコちゃんはゴミを見る目で、


「駒が盤上で勝手に戦うチェスがありますか? 主張をどう論破するかを考え、どう調査するかを我々に指示するのが貴方の仕事ですよ」

「う、確かに……」


 僕は恥ずかしくなって、肩をちぢめてうつむいた。


「流石はサクなサク様。今日もサクさ加減にターボがかかっておりますね」

「僕の名前を形容詞にしないで」

「SAKU。変態鬼畜下衆外道下劣野郎の意。去年国語辞書にに載せるよう各出版社に申請したのですが、どうして知人が経営するユーモラス国語辞書にしか載っていないのでしょうか?」

「載ってるの!? 僕の名前、罵倒形容詞として辞書に載っちゃったの!?」


 僕はあまりのショックに打ち震えた。


「サク殿、日本で出版された全ての書籍は国立図書館に収蔵、保存されるのですよ」

「良かったですねサク様。歴史に名を残しましたよ」

「よくないやい!」


 涙ながらに抗議すると、サエコちゃんが嘆息を漏らす。


「冗談はこれぐらいにしてそろそろ働きましょう」


 え? 誰のせいか解っているの?

 とは言えない僕だった。


「今回は特別に我々が助けてあげましょう。サク様、まずセツキ様はなんとおっしゃっていましたか?」

「えっと、とにかく疑ってかかれって」

「ではそのようにしましょう」

「でもだよ」


 僕はナミカちゃんが提出した証拠資料。投影ウィンドウに映ったレーダーの写真を見せる。


「これをどうやって疑えって言うのさ」


 サエコちゃんが、ウィンドウを覗き込んで指を口元に添える。


「この反応が敵機のものではなくデコイである可能性は?」

「僕らの第五中隊を含めて第四大隊はレーダーを最新式のものに積み替えたばかりなんだよ。デコイに騙されるわけがない」

「ではそれを疑いましょう」

「へ?」

「このレーダー反応を得るために、第一中隊がレーダーを旧式のものに積み替え直した可能性です」

「そこまでする!?」

「全てを疑うとはそういうことです。セツキ様はいつもそうしておりました」


 サエコちゃんは冷静に、淡々と答える。


「私が第一中隊に潜入し、調べましょう」

「で、できるの!?」

「いつものことです。では」


 サエコちゃんは頭の両サイドにつけたウィッグをはずすと、投影ウィンドウを展開。


 すばやく操作すると、空間テクスチャ、物理観賞できる触れる立体映像でロングウェーブヘアーを作った。


 ベリーショートになった髪が延長しながらゆるいウェーブがかかる。それだけで印象が大きく変わって、知り合いじゃないとサエコちゃんだとは気付かないかもしれない。


「行って参ります」


 サエコちゃんの姿が消えた。というよりも、感じられなくなった。

 僕が驚いた反応をする前に、今度はルイちゃんが、


「わたしはこのレーダー画像そのものに疑いを持つのですよ。デコイ以外の何かでは?」

「デコイじゃない?」


 聞き返すと、ルイちゃんは右手の人差し指をぴんと立てる。


「レーダーよりもさらに正確な情報をつかむ必要がありますな。それはわたしにお任せあれ。サク殿。今回の手札は我々が用意しましょう」

「ありがとうルイちゃん」


 僕はすぐに頭を下げた。


「ですがサク殿。どれだけ手札を集めたところで、戦うのはサク殿自身ということを忘れずに」


 ルイちゃんの言葉が、僕の胸にずしっとのしかかった。

  

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