第23話 月面闘争前編


 一年前――月面上空――三〇〇キロメートル地点――


「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄‼‼‼」


『敵反応増加。右舷二三五五。左舷三〇一六。太陽側から六〇〇。六時の方向より荷電粒子砲検知』


 朝更はオオクニヌシの出力スロットルを最大出力(マキシマム)から限界出力(フルバースト)へ設定。ジェネレーターの縮退炉が限界まで稼働してヒートアップ。

スラスターとバーニアを総動員して敵機の軍勢と距離を詰める。


 万軍の電磁誘導されたローレンツ弾が、プラズマ弾が、ミサイルが弾幕となり襲い掛かる。


 朝更の周りでは仲間の軍事甲冑が次々撃墜されていく。


 宇宙の戦いは無音だ。


 音を伝える空気が存在しないため、誰もかれもが無言で死ぬ。


 仲間の悲鳴も、遺言も、最期の言葉を聞く事なく戦闘は続く。


 朝更は両手のプラズマライフルはフルオートで引き金を引きっぱなし。クイックブーストを駆使した三次元機動を駆使して全弾回避しながら接近。

それでもかわしきれない弾には電離分子装甲の密度や配分を巧みに操り対応した。


 仲間も同じようにして、敵を一方的に撃墜していく。


 敵も無音の中で爆発、またはコントロールを失ってあさっての方向へ飛んで行った。


 朝更のすぐ横で仲間の横井機の頭が飛んだ。


「横井!」


 初陣を共にした仲間をまた一人失い、朝更はハードポイントからグレネードランチャーを外して構える。


 オオクニヌシが朝更の脳内に周辺情報を送り続け、ヘッドアップディスプレイさながらの視界の中で敵の密集地帯にグレネードランチャーを連続発砲。


「よくも横井をおおおおおおおおおおおおおおお!」


 グレネードランチャーをハードポイントに戻して、朝更は両手に電磁投射小銃を再構築する。


「はぁあああああああああああああああああああ!」


 火器管制装置(FCS)の性能を考慮してもクレイジーな命中精度で敵軍を圧倒。

 日本軍の大人達は最年少である朝更に続く形で敵軍に辿り着く。


「行くぞオオクニヌシ‼ 全ての敵をここで食い止める!」

『高周波槍アマノサカホコ オービット兵装ヤチホコ 再構築』


 朝更の背後に量子の光が後光のように光り輝き、無数のオービット兵器と姿を変える。


 高周波剣が、槍が、斧が、電磁投射小銃が、電離分子小銃が、荷電粒子砲が、あらゆる武装の展覧会だ。


 その一つ一つが意思を持ったように無慈悲に冷酷に敵に襲い掛かる。


 朝更の手には全長三メートル以上の巨大な矛が再構築されて、高周波の刀身を基点にして巨大なプラズマソードを形成した。


「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄‼‼」


 朝更は超音速の斬撃を全身にまとい、敵軍を切り崩す。


 万の刃が朝更に砕かれ、万の弾頭は弾かれ、捌かれ、防がれる。

味方にとっては戦場の軍神、敵にとっての魔王リヴァイアサンはこの大宇宙という大海原で荒れ狂う敵軍という波をかき分け、吞みこみ、一顧だにせず縦横無尽に咆哮を上げた。


 専用機の戦闘力は量産機を遥かに凌ぐ。


 一機で数百の量産機を討ち取るのは珍しくない。

 だがこれは……


『敵全軍、降下します』

「逃がすかぁ!」


 進行方向上の邪魔者全てを撃墜しながら一瞬で降下を完了。

 月面上一センチで直角カーブ。

 月面に降り立った敵軍の中を一騎駆けで暴れ狂う。


『敵軍の六割が撤退を開始、四割は殿のようです』

「撤退か、なら退いて一度大佐の指示を仰いでから隊列を組み直して」

『マスター! っっ、大田原機と田所機の反応が消えました』


 朝更は絶句して、血の涙を流し絶叫した。


「嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴嗚鳴‼‼」


 魂の逆鱗をむしり取られた。

 無数のオービット兵器を同時に操り敵を地獄に落としながら、朝更は電離分子高周波矛アマノサカホコを握りしめる。


 桐生朝更という男の心が矛を下ろさせない。漢の拳が矛を離さない。雄の本能が猛って叫ぶ。


 桐生朝更という男漢雄の血潮が、彼を構成する原子の一つ一つが激情してこの世に地獄を顕現させる。


「男漢雄男漢雄男漢雄男漢雄男漢雄男漢雄男漢雄男漢雄男漢雄男漢雄男漢雄男漢雄‼‼」

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