第11話 弟子の適性を見抜け! そして戦略勝ち
俺が見上げる藤林は、縦横無尽に空を飛びまわり、アメリアの飽和攻撃から逃れ続けている。アメリアもとうとう後がなくなったのか、空中静止をやめて、藤林を追いかけ熾烈なドッグファイトを繰り広げていた。
「高周波ブレード以外の兵装を全て外して軽くすると共に機体面積を減少して回避率を向上。藤林を格下とナメるハワードの無駄撃ちオンパレードを可能な限り回避。回避しきれないのは右手と両足で防御。手足はいくら壊れても負けないけど、破損を見せる事でハワードは調子に乗って無駄撃ちをやめない。そして気付いた時には」
俺らの視線の先、アメリアのガトリング砲が空回りして弾を吐かない。
他の兵器も弾切れのようだ。
藤林は空中に静止して、アメリアに集中する。
「っ、弾がもう……ええい、ハンパイガールは虫の息。それに逃げることしかできないバンビなんて」
アメリアの両手の榴弾砲が量子化、かわりに一本のロングソードが再構築された。
「直接ぶった切ってあげマース!」
グラウンドゼロのメインブースターが唸りを上げて猛り狂う。
アメリアの体は藤林目がけて一直線に突っ込み、瞬く間に距離を詰める。
流石はニューヨーク州チャンピオン。スピードを生かして勢いをそのまま剣に乗せて振り下ろした。
俺の周りで女子達が騒ぐ。必死に藤林の名前を呼ぶ。悲鳴を上げる子までいる。
だから俺は一言。
「俺の、筋書き通りだな」
試合開始から一言も離さず、全神経を回避行動に集中させていた藤林は両目を見開く。
生まれ持った超動体視力で、アメリアの太刀筋をスローモーションで捉えている事だろう。
アメリアが必殺剣の間合いに入ったと同時に超反射神経で反応。藤林は刀の切っ先をアメリアに向けてブーストと、腰と、背骨と、肩と、ヒジと、手首をほぼ同時に爆発させた。
「ッッ!?」
突然、アメリアが高速バック転でもするように回転しながら、進行方向に向かって落下した。
対する藤林は直刀を突き出した態勢を元に戻しながら減速、反転、墜落するアメリアをハラハラした顔で見守った。
試合終了のブザーが鳴り、アナウンスが流れる。
『試合終了。勝者、藤林叶恵』
アリーナの超巨大投影画面にマネキンの画像が映り、ヒットポイントとして額が赤く光った。
「やったー♪」
『叶恵が勝ったー♪』
俺の周りでは女子達が万歳や飛び跳ねて喜び互いにハイタッチをかわしている。
「凄いですよ朝更くん! 藤林さんニューヨークチャンピオンに勝っちゃいましたよ!」
水越先生も俺の肩をゆすりながら大興奮だ。
一方、アメリアは激突した地面に仰向けに倒れて、目を回したまま動かない。
アメリアには何が起こったか解らないだろう。
相対速度。互いに時速三〇キロで近づくと、時速六〇キロで相手が迫って見える。
そして物体は近い程実際より速く動いて見える。走る列車から顔を出すと、真下の地面は高速で流れるのに景色はゆっくりと流れるという話だ。
アメリアは静止する藤林に超高速接近していた。それが急に、それも至近距離で藤林も最高速度で接近。腰や腕の速度も加えた刀身に至っては認識すらできなかっただろう。
相手からすれば自ら刀の切っ先にぶつかりに行ったようなもので、しかも剣術最大のリーチを誇る突きなので、こちらの攻撃だけが一方的に当たる。
でも実践するのは言うほど簡単じゃない。
超高速で接近する相手が、射程に入る瞬間を見極め、さらに反応し、相対速度の超超高速で迫って見える敵に突きを当てるのは、並大抵の動体視力と反射神経では不可能だ。
おそらくはこの学園、いや、東京でも藤林にだけ許された必殺剣だ。
「あれ? でもあれを教えたって事は朝更くんもあれできるんですか?」
「はい、俺の動体視力と反射神経は藤林の三倍ですから」
歯を見せて笑う俺に、水越先生が口をあんぐりと開けたまま動かない。
「あ、朝更くんて何者ですか?」
「いえいえ、なんてことのない、ただの人殺しですよ」
「桐生ー」
俺は席を立ち、降下しながら笑顔で手を振ってくれる藤林に手を振り、笑顔を返す。
「よくやったな、藤林、これでレッドフォレストに、一歩前進だぞ」
「うん、桐生」
藤林は機体を量子化して、俺に抱きついた。
「ありがとう。大好き♪」
俺はこの時、数年ぶりに太陽のような笑顔を見た。
はじけるような笑顔とやさしいぬくもりは、俺には眩し過ぎる。
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