第90話 ドリーム・オブ・ドリームマッチ

「オラオラオラオラオラー!」


 伸二は連続でラッシュをかける。


 マイクは全てしっかりガードしてから、突然バックステップで距離を取ってから右ストレートを放ってくる。


 かわさず、左腕でガード。

 左腕がへし折れそうな衝撃に耐えながらカウンターの右パンチ。

 けれど右ストレートを左ジャブで受け止められてノ―ダメージ。


 マイクの反撃。


 基本に忠実なジャブジャブストレート。

 ガードするだけでもダメージは避けられない。


 これがヘビー級のパンチ。

 それも、チャンピオンの。

 伸二のいたミニマム級など及びもつかない、比較にすらならない威力だった。


「死にな」


 体重一五五キロの、ヘビー級ボクサーマイクが右拳を大きく後ろに引いて、全力の右ストレートを打ちこんで来る。


「ッッ!」


 逃げずに両腕でガードして、伸二のボディは人形のように後ろへ飛んだ。

 伸二は愕然とする。


 これがヘビー級の右ストレート。


 ミニマム級の右ストレートをノーガードで顔面に受けてもこんな衝撃は走らない。


 ガードを貫通して胴体や顔面の骨の奥に浸透する激痛に耐えて、伸二は浮いた体を着地。


 だがマイクはすぐそばまで距離を詰めていた。


「どうしたミニマムボーイ!」


 右フック。

 体がくの字に折れて、衝撃で首が曲がった。


 左ボディブロウ。

 ミニマム級といえど、死ぬほど鍛えまくった腹筋。


 だがヘビー級とは厚みが違う。


 背中まで抜ける衝撃と口までせり上がって来る血の味。


 一日千回、重りを抱えて腹筋をした。

 ジムの仲間に踏むどころか、ストんピングキックを落としてもらった。

 自分自身でも鉄の重りを何度も腹の上に叩きつけて鍛えた。


 ミニマム級じゃ負けなしだった。

 NVTで一〇〇級の選手のボディブロウを喰らっても、この鋼の腹筋で受け止めてやった。


 なのにそれがマイクには通用しない。


 同じヘビー級ボクサーでも、マイク以外の拳なら伸二には効かなかっただろう。


 だがしかし。

 問題は相手がマイクだったことだ。

 伸二がミニマム級チャンピオンならばマイクはヘビー級チャンピオン。


 ヘビー級同士で殴り合い勝利し続けた最強のヘビー級。

 ヘビー級の中のヘビー級。

 ヘビー級のキングオブキング。


 突きの練度。重い拳にかけては世界トップクラスの男だ。


「ッッ」


 それでも負けられない。

 伸二は守らず、攻める。

 マイクより一発でも多く打つ。

 打たれる数より打つ数を増やす。

 顔面への攻撃だけはガードして、ボディへの攻撃は許し、ガードよりもパンチ。


 守るより攻める。


 伸二とマイクの打ち合いは壮絶だった。


 互いにノーガードに近い状態で、大人と幼児ほども体格差のある二人がブン殴り合う。


 伸二が血を噴く。

 体が浮く。

 上体が後ろに倒れる。

 そして一〇〇分の一秒で立て直し打つ。


 マイクも伸二のパンチを顔に、胸に、腹に何度も受けて、耐えしのぐ。


 自分の拳で崩せない相手は、伸二にとって初体験。



 この男はどれほどの耐久力を持っているのか。


 伸二は歯を食いしばりながら心の中で問うた。

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