第16話 妄想力たくましいなぁおい

「へぇ、あいつ強いなぁ」

「いやいや、強いっていうかせっちゃん、あれ人間?」


 あっけらかんとした羅刹に、好美が冷静にツッコむ。


「ん?」


 羅刹は、逆隣に座る礼奈が尋常ではない震え肩をしているのに気付いた。


「どうした礼奈?」

「どうしたのじゃないでしょうがぁああああああああああああ!」


 礼奈は絶叫しながら肩を掴んで来る。


「あんたファングって! トーナメント表見たらあんたの準々決勝の相手じゃない! あんなバケモンに勝てるわけないじゃん! 何よホッキョクグマが主食ってバカじゃないの!?」

「れ、礼奈?」


 礼奈は頭を抱えてしまう。


「うあああああ! 準々決勝じゃベストエイト止まりじゃない! そうなったら会社は倒産。借金のカタに個人資産まで差し押さえられてあたしはヤクザに売られてソープで精液漬けにされてAVの変な企画モノにだされて油ギッシュなおっさんの子供を孕ませられるんだぁああああああああ!!」


 涙を流しながら頭をかきむしる礼奈。

 羅刹は冷静に、


「社長、あんたの妹さんすげぇ妄想力たくましいな。ていうかその知識どっからもってきた?」

「礼奈ちゃんのパソコンの検索履歴が見たいわね」


 華奈はおちついた笑みを見せてくれた。


「あ、せっちゃん。あたし賭けに勝ったから三〇〇円もらってくるね」

「おう、迷子になるなよ」


 礼奈以外は、実に和やかな試合後の風景だった。


   ◆


 一五分後。


『それでは興奮冷めやらぬ内に一次予選第二試合を開始致します! 第二試合はアフリカ対決! アフリカ最強の戦闘民族マウラ族最強の戦士! 部族最強の男はNVT最強の称号を取れるのか! ライオン、カバ、サイ、チーター、ヒョウ、バッファロー。素手で仕留めた獣は数知れない! ケニア企業! ケニア・ゴールド代表! 身長二〇〇センチ体重一五〇キロ! 捕食者! ボルバ選手入場です!』


 リングに現れたのは長身の黒人選手だった。


 アメフト選手のように肩幅が広く、分厚い胸板と腹筋、太い腕が、彼のパワーを物語る。


 そして体にいくつも刻まれた傷痕は、誰の目にも一目でそれが獣の爪や牙の痕だと解った。


 顔の赤いメイクは、部族の戦化粧だろう。


 ボルバは頭の上で手を組み、戦いの神に勝利を捧げた。


『続いて最強霊長類! 人類はこいつに勝てるのか!? コンゴ民主共和国代表! コンゴ民主共和国自然公園より参戦! 身長二〇〇センチ、体重二二〇キロ!』


 選手入場口から、一頭の大型ゴリラが姿を現した。


『食物連鎖の頂点! コンボイ選手でーす!』

「もう人間ですらないじゃない!」


 VIP席で奇声を発する礼奈。

 好美も目を丸くして固まって言葉が出ないようだ。

 客席も、一部からは野次が飛んでいる。


『ちなみにコンボイ君は地元では住民票を発行されています。生まれた時から人間と一緒に生活し、自然公園の全猛獣の王者として管理員の職についています』


 コンボイは胸をポコポコ叩いてドラミングアクションを行う。


 二本足で立つと観客向けて手を振り、中に人が入っているのでは? と思ってしまうほどににんげんくさい。


 ボルバが不敵に笑う。


「ゴリラか……私が今まで、何頭のゴリラを素手で殺してきたか君は知っているかな?」


 コンボイはボルバ相手に鼻で笑う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る