第14話 あれ? これ積んでいる?

 俺は部屋に戻ると、靴と制服のブレザーを脱いですぐベッドに倒れ込んだ。


 時間はまだ昼。


 でも昼ごはんを食べる気が起きない。


 それ以前に空腹感を感じない。


 ベッドの上に横たわり、俺は人狼ゲームのことを真剣に考えみた。


 無い頭でも、少しぐらいは対策を考えておかないと駄目だ。

 ルールを整理しよう。




 まず朝、昨晩に人狼に襲われた人を確認。

 それから、誰が人狼なのかを議論する。

 議論を元に人狼だと思う人に投票。

 もっとも多く投票された人は処刑。

 その人が人狼だった場合はゲーム終了。

 違った場合は夜にまた人狼が村人を襲い殺す。

 そしてまた次の日の朝を迎える。




 人狼を殺すには投票で人狼に多くの票が入るようにしなくちゃいけない。

 そして人狼が誰なのか特定する方法は二つ。

 

 『議論』

 と

 『職業』

 

 職業の力は単純だ。

 例えば俺の職業の力で、ツインテとキンパツは確実に村人だと解っている。

 それに俺は占い師であって人狼じゃない。

 残るは八人。

 そこから『俺』『ツインテ』『キンパツ』を除く。

 容疑者は五人。


 『ハゲ』

 『オールバック』

 『ミツアミ』

 『ロング』

 『シャギー』


 だ。

 後は議論の内容、みんなの言動から怪しい人を見つける事になる。

 この五人の中で怪しい人は……


 だめだ。


 それこそ頭のいい秀才の領域だ。


 俺みたいにただ毎日普通にゲームや漫画で遊んでいる凡人には……いや、それでも考えなくちゃな。


 俺は、今まで行った二回の議論を思い出す。


 アフロとシャギーとキンパツが積極的に喋っていた。

 アフロが俺は人狼じゃないと言って、

 シャギーがだからこそ怪しいと言って、

 アフロが全然喋らない奴も怪しいとか言って……


 あれ?

 これって積んでないか?


 俺は気付いてしまう。


 だって、そうじゃないか。


 状況を整理しよう。


 まず俺らは互いに正体が解らない状況にある。

 だからみんなの言動から人狼を判別するしかないわけだけど、当然みんな、


 『自分は人狼じゃない』

 『人狼は誰だ?』


 を主張するわけだ。

 するとどうなるか。

 俺は、頭の中で順番に事象と結果を並べてみる。


 ●自分は人狼じゃないと積極的に主張した場合。

 ●ムキになるところが怪しいと言われる。


 ●自己主張せず喋らない場合。

 ●喋らないのはうしろめたい事があるからだ、怪しいと言われる。


 ●誰か人狼が積極的に調査する。

 ●自分が人狼なのを隠す為に張り切っている村人を演じているん、怪しいと言われる。

 

 ●喋らず、冷静にみんなの状況を把握するのに務めた場合。

 ●喋らないのはボロが出ないようにだろう、怪しいと言われる。


 何を喋っても、

 何を喋らなくても、

 疑おうと思えば歌がえてしまう。

 これでどうやって人狼を見つければいいんだよ。

 そうなると人狼に襲われた人から、人狼の正体を推測することになるよな。

 でも……


 Aさんを疑っていたBさんが夜襲われて死んだ。

 ↓

 Aさんが、保身の為に自分を疑うBさんを殺したんだ。Aさんが人狼だ。

 ↓

 それじゃ普通すぎる。そうやってAさんが容疑者になるよう、違う人があえて、Aさんを疑うBさんを殺したんだ。


 駄目だ。

 駄目過ぎる。

 何を言ってもやっても駄目だ。

 昔どっかで、


 『この世の全ては解釈によるのと何が正しい悪いは言えない』

 『真実なんてない、そこにはただ解釈があるだけだ』


 ていう言葉を残した人がいるらしいけど、うん、そうだね。

 何を言っても言わなくても、


『何故言うのか』

『何故言わないのか』


 その解釈をつければ人狼にも村人にも見える。

 夜に襲われるのも、

 そこにあるのは、


 『Bさんが殺された』


 という事象であり、何故殺されたのかという解釈は、後付けでいくらでもつけられてしまうんだ。

 それこそ俺が言ったように、Bさんが殺されたのは、


 『Aさんが保身の為に殺した』


 とも、


 『Aさんが保身の為に殺した、とみんなに思わせる為に別の人が殺した』


 とも解釈できる。

 う~ん。

 頭のいい人ってどうやって真実を見極めているんだ?

 俺は今までに見た、探偵もののマンガを思い出す。

 某ジッチャンの名にかけて推理するマンガとか。

 某見た目は子供だけど頭脳は大人のマンガとか。

 

 ①犯人しか知らないはずの事を知っている。


 いや、犯行は殺したい人を選べばニャル達が勝手に殺してくれるんだろうし。

 犯行の手口はみんな知っている。

 犯人しか知らない事、っていうのはないよな……


 ②一人だけアリバイがない。


 これもなぁ……

 だから犯行はシャンタに殺す人を伝えればニャル達が勝手にしてくれるし。

 そうだ!

 夜は全員一緒にいてシャンタに殺す人を伝えることができないように……は、ゲームの進行を妨げることになるのか……

 そもそも、相手はあんな壁に溶け込んだりする神出鬼没の奴だ。

 トイレに行っている間に個室の中に現れるとか、

 いや、それ以前に心の中に話しかけるぐらいやっちゃいそうだ。


 ③犯行動機。


 それこそ最初に考えた積んでいるって奴だよなぁ。AさんがBさんをどうこうっていうのと同じじゃないか。


 ④犯人が動揺するものを見せる、言う。


 …………

 これかな?

 直観だけど。

 これが一番まともな気がする。

 俺達は人狼ゲームの素人だ。

 ポーカーフェイスは鍛えていない。

 例えばだ、

 Aさんを疑っていたBさんが夜に殺される。

 俺があえて、


『Aさんが保身の為に殺したんだ』


 と言った時、Cさんがニヤリと笑う。

 つまりこれは、

 俺にそう思わせる為に、

 Cさんがあえて、


『Aさんを疑うBさん』


 を殺した。

 全てはAさんに疑いの目を向ける為に。

 だから人狼はCさんだ。

 うん、いい推理じゃないか。

 よし、この方法で行こう。

 ただ、この方法だと犯人が元から感情が表情に出にくい人だと使えないけど……

 まっ、凡人の俺にはこれが精一杯かな。

 そこまで考えて、俺は目をつぶった。

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