第5話 初日終了


 会場の電気が、一つ一つ消えて行く。

 俺はちょっと慌ててうしろの出口へと向かった。


『あ、そうでしたメガネ君。君にはまだ私の名前を言っていませんでしたね♪』


 俺は立ち止り、童女を振り返った。


『私の名前は這い寄る混沌、ニャルラトホテプです♪ 気軽にニャルとお呼び下さいね♪ そしてこの可愛いバニーちゃんたちはシャンタきゅんです♪』

「あ、はい、じゃあ」


 それだけ言って、俺はすぐに小走りになった。


 壁にぽっかり空いた穴に駆けこむと、何も見えなくなった。

そして目の前の空間が切り取られたと思う様にしてドアが開いた。

くぐればそこはまた、あの高級ホテルみたいな場所の廊下だ。


 背後には、何の飾りもない黒いドア。


 自動ドアなのかな?


 まっすぐ行って、大きなホールへ行くと、もうアフロ、ハゲ、キンパツ、シャギーがソファに座っていた。


 俺のうしろからは、いつの間にかツインテやみつあみ、オールバック達がぞろぞろと続いている。


 どこから行ってもあの黒いドアに続いているのか?


 でも暗くてよく解らなかったけど、分岐点とかあったか?


 不思議と言えば、あの童女だ。


 あいつはニャルラトホテプと名乗った。


 俺のサブカル知識が正しければ、それはアメリカ、クトゥルフ神話の邪神の名前だ。


 シャンタきゅん、というのは、ニャルラトホテプの家来であるシャンタク鳥がモデルだろう。


 銀髪紅瞳のニャルを思い出す。


 あの日本人離れした容姿。


「ようするに、俺らはアメリカのクトゥルフオタクの財閥お嬢様の遊びに巻き込まれた。みたいな感じかな……」

「そうか? 俺はやっぱりテレビだと思うぜ」


 俺に声をかけたのは、ソファに座るアフロだった。


 俺は、アフロの前のソファに座った。


「ドッキリ番組とチャレンジ番組の合体つうの? きっとこのホテルもいろんなところにカメラがしこまれているんだぜ」


 歯を見せて『いひひ』と笑うアフロ。


「いや、いくらテレビでも拉致は犯罪だろ? 俺は学校帰りにさらわれたっぽいけど、みんなは?」


 ホールには、もう一〇人全員が集まっている。

 みんなを見回すと、ソファに座るハゲ、キンパツ、シャギー、ミツアミがアゴに手を当てて思い出す。


「俺も学校帰り」

「あたしは教室で友達とお喋りしていたと思う」

「あたしは家に帰ってテレビ見ようとしていたんだけど」

「あ、あたしは、その……学校に行く途中」


 俺は驚く。


「え? 朝なの? 何時間気絶させられていたんだよ?」

「もしもこれがテレビなら」


 立ったままのツインテが、ちらりと俺に視線を投げる。


「家族にはあらかじめ了解を取っているはずよ。そのことで、何か矛盾する人はいるかしら?」


 ツインテの凛とした視線に、みんなは何も答えない。

 小声で、


「いや」

「別に」

「むじゅん、っておいおい」


 という反応だ。


「…………そう、ならいいわ。じゃあ、私はこのホテルを調べて周るわ」

「調べる?」


 俺が聞き返すと、ツインテはもう背を向けてしまう。


「私の部屋は二階なのよ。階段は三回にも繋がっていた。この建物、かなり広いわよ。数日がかりのゲームなら、部屋以外にも生活に必要な施設があるはずだし」


 言いながら歩くツインテは、そのままホールからいなくなってしまった。


「あ、あの、じゃああたしは、部屋に戻っているね」


 ミツアミは不安そうな顔で、俺らから離れて行った。

 彼女が向ったのは、ツインテと同じ方向の廊下。

 ミツアミの部屋も二階なのだろうか?


「あたしも部屋に戻るわ」

「俺は探検するぜ」

「俺も」

「俺は疲れたから寝る」

「え、おい」


 こんな状況なのに、みんなは大した話もしないで、バラバラに散って行った。


 俺が気にし過ぎなのか?


 まぁ、マンガの読み過ぎかもな。


 それこそ俺の好きなラノベの言葉を借りるなら、もう解っている。


 世の中には、SFもファンタジーもサスペンスも無い。


 テレビの最新科学番組では超小型ヘリコプターやロボットが出て来るけど、いつまで経っても実用化、家庭用ができる気配が無い。


 オカルト番組みたいな事にでくわした事もない。


 巨大な組織の陰謀も、ドラマの世界だけで、少なくとも俺みたいな一般人学生が巻き込まれることなんて有り得ない。


 確かに、アフロの言う通り、ドッキリ番組と思うのが一番自然だろう。


 そう思って、俺は自分の部屋に戻った。






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 オールジョブ人狼ゲーム


 ルール一

 勝敗条件。


 村人の勝利条件。


 人狼を殺す事。

 殺す方法は投票による処刑。

 または職業の力。



 人狼の勝利条件。

 

 プレイヤーの数が四人以下になる事。

 人狼が複数人いたり、職業の力で一度に数人死ぬ場合、三人以下でゲームが終了する場合もある。

 人狼勝利時、生き残っている村人も人狼と一緒に勝者扱いとなる。


 補足

 村人は人狼を殺さなくても、プレイヤーが四人以下になるまで生きていても人狼と一緒に勝者になれる。

 なので、人狼探しに協力せず、自己保身にだけ走るのもプレイ方法の一つ。

 ただしこの方法だと生き残れる人数は最小になる。

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