恋に気づいた時
河原
第1話
好き──
いつからかわからないけど気がつくと目で追っている。
ふと校庭を眺め探している。
──ある時、その感情が恋だと知った──
「おはよー!」
「おはよー」
何故だか午後のクラブ活動なのに、挨拶は『おはよう』な吹奏楽部。
元々クラブ活動が大好きで、誰よりも早く沢山練習したいという思いもあった私。
掃除が終わって真っ先に音楽室へと行く私は、1人の男子と遭遇する率が高かった。
男子の所属数はほんのわずかで、その数の少ない男子達は、他の女子部員達から恋の相手として騒がれることも多かったが、私は別段気にしてはいなかった。
クラブに所属し、半年以上が経った頃。同じクラブの女子数人に囲まれた私。
「◯◯君から離れてくれない?」
「は?」
クラブ途中の休憩時間。トイレから帰って来た私は、突然の言葉に訳もわからず短い返事をした。
「ねぇ、貴女◯◯君の事好きなんでしょ?」
クラブに来た時に少し会話する程度の関係である◯◯君に何故。
「よく話してるじゃない。いつも目で追ってるし!」
たしかに挨拶はする。準備中に世間話もする。でもそれはクラブ始まりで会う全員に対してしているし、目で追ってる……?
「クラブの時間の始めにいつも準備室で何か話してるじゃない!」
「……準備しに来て、誰か人がいたら挨拶くらいするし、世間話くらいするじゃない……?」
特に毛嫌いしてる人物でもなければ少しの立ち話くらいする、と思っていた私。
だが、恋する乙女脳な人達からは全てが違って見えるようで。中心となって話してくる、背の小さくて可愛いツインテールの子が苛立ちを露わにして言った。
「じゃぁ休み時間窓から眺めてたのはなんなのよ⁉︎」
確かに、休み時間外に出て遊ぶ気の少ない私は、教室で本を読むか、窓から外を眺めながらぼーっとしている。確かによく校庭で遊んでいる彼を見つけてはいたけれど……
「……外に出るのが億劫だから……?」
彼女らは、口々に何か文句を言って、
「出来るだけ近寄らないでよね! あたし彼のことが好きだから!」
そう最後に告げて去っていった。
そうか──彼女は彼のことが好きで、彼女の周りの子は彼女に協力していて。
彼と話がしたいのなら、早く来て準備を始めればいいのに、私の方が早いからいつも彼と話ができない、と。
まぁ、掃除当番の関係で早く来れない日もあるだろう。
けど、私は彼女たちが掃除を終わってもすぐに来ず、教室で楽しそうにおしゃべりしているのを知っている。
「それは──遠慮する必要はないわよね」
彼と私と彼女。全員クラスは違っていて、私と彼女の条件は同じ。
私はこれからも遠慮なく掃除直後にクラブへ向かうことを決めた。
「おはよー! 今日も来るの早いね?」
「おはよ。掃除なんか早く終わらせて好きなことやりたいからな」
はじめは何も気に留めていなかったその他愛もない会話が、たったアレだけのことで砂漠にオアシスを見つけたかのように感じる。
これも『恋する乙女脳』の効果なのだろうか──
恋に気づいた時 河原 @kawabara123
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