私とあなたは違うのよ

@uisan4869

すれちがい

あなたはそう思っていても、私はこう感じているの。

何回言えば気が済むの?何回同じ事を聞かされるの?

いい加減、あなたの言葉には嫌気がさしてきたの。

あなたとはこれでさよなら。わたしにはもう関わらないで。


最悪な別れ方をした元カレ。5年付き合って同棲までして結婚の約束もしていた彼は私の知らない所で私の友達と浮気をしていた。久しぶりに早く仕事が終わった私はたまには二人でゆっくり夕食を食べようと少し良いお酒を買ってサプライズをしようと家に帰ると、彼と友達が生まれたままの姿に汗だくで私と彼の二人のベットで抱き合っていた。その光景に鉢会ってしまった私は、弁明しようとする彼に思いっきりバッグを投げつけ何も考えず家を飛び出した。外は雨が振り始めていて、傘も携帯も財布すらも持たずに飛び出した私は行く宛もなく雨で涙を隠しながら街を歩いていた。結局私はどうすることも出来ず、近くに住んでる同僚の家に泊まらせてもらい、家に戻ったのは一週間後だった。恐る恐る家の鍵を開けて中の様子を窺うと、鍵の開く音を聞いた彼が勢いよく走って現れ、私の身体を強く抱きしめた。

「どこに行ってたんだよ・・・。ずっと心配してたんだぞ」抱きしめる力強さや手の震え、そして何より彼の目元にうっすらと残る涙の跡が全てを物語っていた。

「離して・・・!今更心配とか、ありえない!」私は彼を身体から引き剥がし突き放した。よろいめて廊下に尻もちをつき痛そうに手首を抑える彼に私は思わず怪我がないか駆け寄ってしまった。無意識だった。気づいたときには彼の手を取っていた。無意識とはいえあんな事をした彼に手を差し伸べてしまった。彼は私が差し出した手を少しの笑顔で受け取ると「やっぱり・・・」と小さく呟いた。

「なに?この期に及んで何がやっぱりなの?」

「やっぱり俺は・・・お前がいないとだめなんだ・・・」

ああ、出た。まるで捨てられた子犬のような目で私の目の奥まで見つめてくる暑い眼差しに私は弱い。いつも何ある度にこの目で見つめてきては私の心を惑わせてくる。

彼は差し出された手を自分の方へ軽く引くと私はバランスを崩し彼の身体の上に倒れ込んだ。冷たい廊下に二人の身体は重なり、互いに肌に感じる人のぬくもりに思いを馳せる。一回の裏切りかもしれないし、私が知らないだけで他にも裏切られているのかもしれない。だけど、今私の心の中は裏切りよりも肌に感じる彼の手の艶やかさとぬくもりが段々と怒りを幻想の優しさへと色を変えていく。

私は信じていた愛を裏切られながらも裏切りの愛を受け入れてしまうバカな女。彼の柔らかな唇が私の唇を奪い、首筋へと僅かに歯を立てては愛撫する。抗いたくても心が、身体がもう彼の侵入を許してしまっている。私はまた、彼の甘さに負けてしまったのだ。

昼下がりのマンションの玄関前で外には聞こえない、まるで耳元で囁くような甘く刺激的で、漏れる吐息は艶めかしく脳を悦楽という感情が支配していくよう作り変えられていく。服を一枚ずつ脱ぎ合い、互いに互いの身体を求める子孫を残すために必死な野生動物のように場所も関係なく欲求に従う二人は、太陽よりも熱い熱で一つに溶け合う。

私は弱い。意思も心も彼に対しても、私は何もかも弱い。一人の人しか愛せない軟弱な私は彼のような人間に惹かれて自らの身も心も壊していく。

私は弱い。誰かが一緒にいないと生きていけない。一人では心が持たない。一人では身体が愛を欲して震えてしまう。一人では私は弱いままだ。


時間は残酷にも進んでいき、気がつけば外は日も落ちすっかり夜になっていた。二人の乱れに部屋の中は荒れに荒れていた。テーブルはななめを向き、床には脱ぎ捨てられた衣服が散らばり、最終的に移動してきたベットの上も二人の求めあった痕跡がしみや匂いなど五感を刺激する形で残されていた。目が覚めると生まれたままの姿の私の横には誰もおらず残り香だけが布団に染み付いていた。上下の下着を身に着けリビングに出ていく。するとキッチンの換気背の下でタバコを吸う彼の姿があった。彼は私の姿を見ると急いでタバコの火を水道から小さなコップに溜めた水で消して、何事もなかったかのように笑顔で「おはよう」と言った。私と一緒にいる時はタバコなんて吸っていなかった。ましてや喘息持ちの私がタバコを吸う人とは付き合えないと出会った当時いうと彼は自分は全くタバコなんて吸わないと断言していた。それが今ではどうだろうか、前々から薄々気づいてはいたが、電車の中でバスの中で匂いを移されたんだと言われてしまえばそれで終わり。もし疑いなど掛けると彼はたちまち「信じてくれないの?」とまたあの目で見つめて私の追求を拒んでくる。それでも私の前で吸わないのならばと簡単に許してしまった。私の前で吸って私の喘息がひどくならないために気を使ってくれたのだと逆に喜んでしまう。けど・・・

「タバコ、吸うようになったんだね」

「あ、ああ・・・。仕事の付き合いで吸わされるように、なったんだ」嘘。私は見た。前にタバコを吸う彼氏がいる同郷の友だちに聞いたことがある。細いタバコは基本的に女性が吸うことが多い。特にピンクのパッケージがされているものを吸う男性には気をつけろ。それは女性が吸っているものを貰っている可能性が高く、そういう男性は女遊びが激しい人が多いと。不幸なことに彼が今吸っていたタバコも一瞬だったがピンク色の箱だった。

「そういえば、香水変えたの?すごいいい匂いしたけど」

「ああ・・・最近知り合いにおすすめされた香水を使ってみてるんだ・・・。けど、やっぱりお前から貰った香水の方がいい匂いするよな」これも嘘。この匂いはあの日、私のベットで二人で何かをやっていた同級生がいつも好んで付けている香水の匂い。嗅ぎ慣れたこの匂いは今となっては忘れようにも忘れられない匂い。この匂いが鼻には香る度に私の中の黒い部分が露出していくを心の中で感じる。

「ねぇ」

「な、なんだ、どうした・・・・?」

「あの日、なんで二人でしかもあんな姿で私のベットに入っていたの?何してたの?」ふつふつと胸の内から湧き上がってきた黒い感情が無意識のままに口を動かし、禁断の質問を投げかけた。

「そ、それは・・・・」言葉を濁す彼の額にはうっすらと汗が滲んでいた。一滴の汗は額からあの日は伝えられなかった弁明を必死に考える彼の頬を伝って地面へと落ちていった。


汗、彼の汗、あの日のベットのしみ、彼以外の匂い、同級生の姿、困惑、混乱、怒り、呆れ、絶望、孤独。


私はこの世界の孤独に取り残された。


私は最後に何故、彼が裏切りに走ったのか聞いた。すると彼は困った顔で唐突に何か吹っ切れたかのように再びタバコに火を付けた。

「もう、疲れたんだよね、お前のとの生活。はっきり言って窮屈なんだよ」

「窮・・・・屈・・・・?」すると彼は納得のいっていない表情を向ける私にさらに淡々と続けた。

「お前、同棲し始めてからすぐに結婚のアピールばっかしてきただろう?それが俺にはプレッシャーでしかなくて、圧力を常に掛けられているみたいだった。そんな生活、これ以上は続けられる気がしない。そう思ったんだわ」タバコを口に咥えながらだるそうに応える彼に怒りがこみ上げてくる。

「じゃあ、これまでの5年間常に我慢してきたっていうの?」

「そうだよ、お前とは違って彼女は素直でいい女なんだ。結婚や未来がどうとか言わないからな。俺はまだ結婚とか自由を縛られるような生活はごめんなんだよ」

彼の言葉、今置かれている状況、全ての要因が私の中の黒い部分を完全に露出させた。


「やっぱり、私とあなたとじゃあ考えていることも住んでいる世界も何もかも違うのね」

私は初めて人の本心に触れた気がした私はこの時気づいた。


私の弱さとは何なのか?弱いのは私じゃない、本当に弱いのは気持ちに嘘ばかりつく人の心なのだと。

「もういいだろ?お前とは別れてやるから。あ、でも今日まで泊めてくれ。彼女仕事で今日いないんだ」へらへらとまるで何も考えていない緩みきった笑顔で頼んでくる彼に最早怒りを通り越して呆れてくる。


ここからさきは私自身あまり覚えていない。身体が無意識に動いていたのかもしれない。今まで過ごしてきた時間が全て悪い夢だったらいいのにと願いながら私は深い眠りから目を覚ました。

何故か私はキッチンにいて、水でも飲みたかったのだろうか?


5年間、出会った頃は全てが新鮮で楽しくて、時間をずっとともにしていく中で私の中に芽生えていく好きという感情は愛へと変わっていった。深く熱い愛は私にとっては希望でも彼にとっては長い長い檻の中にいるみたいなことだったんだろうな。

でも、私は私で、私の幸せは私にしか掴めない。それだけは彼に感謝しなくちゃ。


でも、外はまだお昼のはずなのにどうして私の部屋は真っ赤なの?

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