第14話 フタロイ村のカバリオ

Jは昇降機に入ると中のレバーを下ろして下降していく。

Jは昇降機内で欄干に向かってジャンプしてレバーがある柱部分に対して前転ローリングを繰り返している。

――何?また変態挙動?ああ、「ウォールトワイスランニング」だっけ?

――惜しいけど違う。今度のは「シャフトランニング」だ

ローリングをし続けて、昇降機が一番下まで行った後に、レバーを作動させながら再びローリングしてその場でジャンプし、崖の壁面と昇降機の隙間に挟まる形になった。

――またなの? 

そして昇降機が上に登っていき、昇降機の床面と地面との距離がJの身長以上になった時、勢いよくJは挟まっている間からはじき出されて高速移動をし始めた。

そしてほんの数秒でフタロイ村近くのガラクタの山に激突するのだった。

――しまった。少しミスった。本当は看板に激突して止まるはずだったのに。

――このガラクタの山は何?見たところ落果遺物のようだけど。

――このあたりは落果遺物がよく落ちてくる場所なんだ。よく落ちてくる場所を回避するように村が発展している。落ちてくる場所は一定だからな。

――そう。さっきの「シャフトランニング」っていうのは?

――原理は同じ「ウォールトワイスランニング」と同じく、コリジョンの押し出しを利用した移動値のベクトル変換だよ。エレベーターがあるところしか使えないけど、トップクラスのバグ移動の速度を出せる。

Jはフタロイの村に着くと赤い屋根の家の民家に向かって一直線に移動し始める。

フタロイ村はジマリ村とは違って畜産を行っている形跡はない。村の中央の広場には大きなクレーターが出来ており、その中心にはまるでロケットのような落果遺物が逆さに刺さっており、村のランドマークとなっている。その周りで住人が楽しそうに会話している。町の中には、武具屋や宿屋、道具屋などRPGに欠かせない要素がある。青色の光が町中の地面の下を行き来している。街灯に当たる部分が村を明るく照らしている。青い光の先は各々の民家に繋がっており、民家の煙突から白い煙に混じって青い粒子のようなものがキラキラと空へ登っていく。空と言っても実際に空はなく地面の中なのだが。

 赤い屋根の家には「医者カバリオの家」と表札が書かれており、中から老婆が出てきた。

「それじゃあ先生。また来週来ますね。」

「ええ、処方した薬はちゃんと夕食後に飲んでくださいね、おばあちゃん。」

老婆はJの横を通り過ぎ、去っていく。ドアがばたんと締められる。

Jは呼び鈴を鳴らすと家の中から20代後半~30代前半程の眼鏡に天然パーマで細身の男が出迎えた。

「はいどなた様でしょう?」

カバリオは怪訝な瞳でJの足元から頭頂までを見つつ誰かと尋ねる。それにJは堂々と答える。

『山頂の発明家に会いに来た』

『特に要はない』

Jは1つ目の選択肢を選ぶ。

――ロリ博士……タラサに会わずに話したらどうなるの?

――2番目の選択肢の『特に要はない』しか出ない。

「あなたはタラサに用があって来たのですね?……そうですか。ここでは少し話しづらい。中に入って話しましょう。」

 カバリオはJを家の中に招き入れる。

Jの前に湯気が立っている黒色の飲み物が出され、カバリオと机を挟み向かい合って座った。

「私の名はカバリオ、わざわざあの子に用があると言ってここに来たと言うことは、名前はご存じでしょう?張り紙にそう書いてありますからね。」

カバリオは湯気で眼鏡を曇らせながらそう言い放つ。

「あの子になんの用ですか?」

『彼女に協力してほしい。』

「そうですか。理由は何であれ人に協力を仰がれると言うのは喜ばしいことです。タラサにとっても有益なものになるでしょう。しかし、彼女は今人を助けられる状態にありません。村の人から話は聞きましたか?」

『聞いた』

『聞いてない』

Jは1つ目の選択肢を選んだ。

――嘘つき

――前世(以前のセーブデータ時)に聞いたから嘘じゃないし。

――村の人はなんて言ってたの?

――「あのねーママが言ってたの。山の上の女の子とは遊んじゃいけないんだってー。」

――真似はしなくていい。

――はい……

――「タラサ・ティールは村の厄介者。落果遺物に執着していた両親もそうだったし、それが原因で死んでしまった。」「私たちは変化を求めていない。新しい技術なんていらないのよ」「村のクレーターは昔タラサの乗って樹上を目指したのだが墜落してしまった。そのときにタラサの両親は死んでその後を継ごうと一人山に籠って研究をしているらしい。」「山の上には行ったかい?あそこには忌み子がいるよ。バカな両親の血を引いた愚かな娘さ。」……とかがストーリーに関係している住民の話しかな。

「そうですか……その上でタラサに協力を仰ぎたいと……」

「この村は以前タラサの父親であり私の友人でもあるオロル・タインゼルとその妻、アイビスが働いていた村でもあります。アイビスは私の妹でした。」

カバリオは神妙な面持ちで話し始めた。

「オロルは落果遺物専門の研究者でした。この村で落果遺物を利用した産業を開拓しようとしていました。しかし村の住人は新しい技術を受け入れようとしなかった。そこでオロルと町の人は時折衝突することがあなたは落果遺物とは何かご存じでしょうか?」

『知っている』

『知らない』

Jは1つ目の選択肢を選……

――2つ目を選んで。

――でも俺知ってるし……

――2つ目を選んで

――……はい……

『知らない。つい最近目が覚めてそれまでの記憶を失っている。』

「そうですか……ではまず始めにこの世界の成り立ちから説明しましょう。」

カバリオは胸ポケットからハンカチを取り出し眼鏡を拭きながら語り始める。

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