手に入らないから
霜月かつろう
第1話
お笑い芸人を買ったのは数週間前だ。衝動買いだったのは間違いない。それに貯金もなかったのでオススメされたリボ払いなる便利なものを使って買ってみた。
決して手に入らないと思っていたものが目前にある状況。そうして繰り広げられる光景に感動したものだ。
「はいどーもー。洗浄機です」
「扇風機です」
「信号機です」
「「「家電三兄弟です!」」」
しかし目の前で漫才が始まるのをぼーっと眺めている。目の前ではあるのだけれど、それに感動することはもうない。
このくだりも見慣れてしまった。これのあとは信号機は家電じゃない。だ。
くすりとはするが大きく笑うことはない。それが少し悲しくはある。買おうと決意した時はこの漫才を見るだけで元気が出たというのに……。
「ってお前、家電やないないかーい」
真ん中の信号機に左の洗浄機と右の扇風機がツッコミを入れる。
これが昔は面白かった。でも……リモコンの一時停止ボタンを押す。お笑い芸人の動きが止まった。
彼らは本人ではない。よく似た作られた3DCGデザイン。それを購入したのだ。それを3Dプロジェクターで目の前に投影していた。一度買ってしまえばまるで自宅で漫才を見せてくれる様なシステムとあって好奇心をそそられつい購入してしまったのだ。
新しいネタが更新されるたびにそれを目の前で見せてくれるとあって最初の頃は感動もしたし、次の更新はいつだろうと心待ちにしていた時期もあった。
しかし、いつしかネタの更新が来なくなり、次第に見る機会も少なくなっていった。サービスが終了したわけではないのでいつの日か急に更新が来てもおかしくはないはずなのだが、それはいつの日になるのだろうと考えてしまう。
リボ払いの支払いが終わるのが先か、更新が先か。とりとめのないことを考えて現実から逃げているのはわかっている。わかっているけれど、だからと言って向き合うこともできない。手詰まりだ。
それでも返していくことしかできない。じっくりとゆっくりと、着実に。それが一番だ。
ふと、自分でネタを作って。目の前のお笑い芸人に漫才をやらせることが出来ないものかと気が付いた。
この地獄のようなリボ払い生活を自虐でもいいからネタにしたいと思った。家電三兄弟からの卒業。家電の次は何がいいのだろう。そんなことをぼんやりと考えていたら少しだけ元気が出てきた。
手に入ってしまったそれは、望んだものではなくなってしまったけれど。手に入ったからこそ、できることがあるのだと。そう思えた。
手に入らないから 霜月かつろう @shimotuki_katuro
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