第21話 アギト十三歳 身長一四五センチ 戦闘力:サーバルキャット並 評価:D+
実り多き秋になったある日の午前。
俺は年が近い仲間の若い男たち六人と一緒に訓練をしていた。
俺と同じ槍使いの四人は、俺から槍術を学ぶ。
効率的な突き、振り、捌きを俺が教える。
型練習を何度かしたら、穂先のないただの棒で組手をして鍛える。
残りのふたりは弓使いなので、別練習だ。
集落のなかに生えている木に、マトとなる木の板を立てかけ、ひたすたら真ん中を狙って射続ける。
ただ最近は、その練習にアオイも混ざるようになったのが少し不思議だった。
「よし、訓練はこれまでだ」
俺が一度手を叩くと、みんなは手を休めて息を吐きだす。
槍使いの四人のソレは溜息に近かった。
「槍使うのって難しいな。やっぱアギトはすげぇよ」
「俺らなんて槍使うのも一苦労なのにな」
「殴ったり蹴ったりする余裕なんてねぇよ」
「アギトのそれ、槍格闘術って名前つけたんだっけ?」
「まぁな。でもまだ改良の余地があるから未完成だ」
槍格闘術。
それは俺が新しく生み出した戦い方だ。
夏のあの日、俺はサーバルキャットにふところへもぐりこまれると、膝で蹴り飛ばしていた。それに、槍を失ったあと、拳でトドメを刺した。
これまでは俺は、いや、この集落の誰もが、狩りのときは槍とか弓とか、武器だけを使った。
仲間同士で喧嘩するときには殴ったり蹴ったりもしたけど、それを狩りに使おうとはしなかった。
でも偶然とはいえ、武器と素手、その両方を臨機応変に使うことが大事だと証明された。
以来、俺は槍を巧みに操るすべを槍術、槍と素手を両方扱うすべを槍格闘術と呼ぶことにした。
「じゃあアオイ、俺ら狩りに言って来るからな」
いつものように言って、俺らは自分の得物を手に集落の外へ足を向けた。
その俺の背中を、アオイが慌てて呼びとめる。
「ま、まってアギトッ」
振り返ると、アオイは弓を握りしめたまま、唇を硬くして俺を見上げている。
「どうした?」
俺が聞き返すと、アオイは一度視線を伏せてから、もじもじしてすぐには口を開かない。
でも、意を決したように顔をあげる。
「わたしも、狩りに連れて行って!」
驚いた。
俺の仲間の六人も言葉を失って、お互いに顔を見合わせたりして、どう反応していいか解らない様子だ。
「女が狩りってありなのか?」
「たしかにアオイって弓つかえるけど」
「え? それって女たちの採集のときに動物と遭遇したときのためだろ?」
「自衛の弓じゃないのか?」
仲間たちの囁きはもっともだ。
俺も、アオイと一緒に狩りに行くというのは考えたことがなかった。
アオイには、比較的安全な採集をしてもらって、あとは集落で他のみんなと留守番をしてほしい。
アオイは両眉を下げながらそわそわして、不安そうな顔で俺を見つめてくる。こんな表情で見つめられると、正直お願いごとを聞いてあげたくなってしまう。
でも、アオイの安全性を考えると、すぐには答えを出せない。
俺が答えを渋っていると、アオイは一歩近づいてくる。
「い、いいでしょ。確かに女で狩りに行く人なんていないけど、アギトたちのは集落の狩りじゃなくて、個人的な狩りなんだから。じゃあ集落のやりかたにこだわらなくてもいいじゃない」
集落の狩りじゃないって、それはどうなんだ?
まぁ確かに、俺の狩りはリーダーが集落の男たちを率いて行う狩りとは違う。
リーダーたちの狩りの分け前を貰えない代わりに得物を総取りできる、個人的に勝手に行う狩りだ。
いつのまにか年の近い連中もついてくるようになっていまは集団の狩りだけれど、本質は俺の個人的狩りだ。
アオイは、とうとう目をうるうるさせながら、俺の手を取った。
「ダメ?」
「一緒に行こうぜ」
俺は、反射で答えていた。
仲間たちが一斉に俺へ首を回す。
だって可愛いんだもん。
可愛いは正義だもの。
まぁこの辺の猛獣より俺の方が強いし、アオイの弓の腕も結構なもんだしなんとかなるだろう。
「別にいいじゃん。槍五人弓二人じゃあバランス悪いだろ?」
俺がそう言うと、他の六人も納得してくれた。
こうして、俺は年の近い若い男六人にアオイを加えた、八人で狩りへ行くことにした。
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