第11話 美少女だらけの世界
「耳と尻尾だけではありませんよ。皆の者」
ファノビアさんが手を叩くと、一部の子らが服をはだけたり、髪をかきあげた。
「……!?」
額からサイのツノを生やす子がいた。
こめかみから牛のツノを生やす子がいた。
腕とは別に、肩甲骨からコウモリの羽を生やす子がいた。
他にも、猛獣系の耳を持った子らが口を開けると、不自然に犬歯が長かったり、可愛い指先の爪が急に伸びて、ナイフのように鋭利な爪が新たに生えた。
僕は呆気に取られて、何も言えないまま思考が停止した。
「お疑いであれば、一人一人触って確認して頂いても構いませんが……」
ファノビアさんの視線が下がって、幼稚園児のように小柄な、コウモリ少女へと落ちた。
バサリ
背中をはだけさせた少女ははばたき、僕の目線までホバリングした。
人が羽で飛ぶ。
こんなの、いくら特撮でも無理だ。
この状況下で、彼女を吊り上げるピアノ線があるとも思えなかった。
無言のまま、クールな瞳で僕の顔を覗き込むコウモリ少女。
ファノビアさんは何も言わない僕の反応を肯定と捉えたんだと思う。
手を叩くと、みんなは一斉にはだけた服装や髪型を正して、コウモリ少女も絨毯の上に着地した。
「…………」
まだ完全に納得したわけじゃないけど、僕の口から追求が出無かったのは、心のどこかで納得しかけているからだろう。
だから僕は、別の質問をした。
「解ったよ、みんなが動物だっていうのは信じる。けど、なんで女の子しかいないの?」
「それも、ニンゲン様全員が問われる事です」
ファノビアさんは頷く。
「まず男性はいます。ただし人口は全体の一割以下で、かなりお年を召しています。エデンの動物は地球の動物と違い老化はしませんが、年月と共に体力が落ちて、寿命が尽きると神のもとへと送られます」
「なんでそんなに男の人が少ないの?」
その逆、女の子が少ない動物ならいる。雌はほんの一握りで、強い雄だけが子孫を残せる。そんな動物だ。でも、雌の方が極端に多い動物というのは聞いた事が無い。
それこそ、戦争で若い男だけが不自然に死ぬ人間ぐらいだろう。
「まず地球では有名な話だとは思いますが、最初の女性イブはサタンという強大な存在に騙されて知恵の実を食べました。ですが最初の男性アダムは同じ人間のイブの言われるがままに知恵の実を食べました、神に禁止された実をです。また、地上の男達はよく戦争した事もあり、神は男が多いとエデンの平穏を乱すと考え、我々から男を産む力を奪いました。男を産ませる事ができるのは、エデンから追放されてなお神から愛される至高の種、ニンゲンだけです」
そこまで言われて、僕の中である図式が浮かんだ。
「え、じゃあもしかして」
「はい。ニンゲン殿が我々との間に多くの息子と娘を儲け、その息子達が多くの娘を儲ける。そしてニンゲン殿が死に、息子達も老いた頃に、また新たなニンゲン殿が召喚される。現在エデンはこれを繰り返しています。エデンは今、少子化問題が深刻なのです」
う~ん、確かに。仮に一〇〇年前に召喚された人が五〇年間子供を作り続けても、末っ子が今五〇歳だもんなぁ。
今この世界で、子供を作れるような男の人はごく一部だろう。
「ん、ちょっと待って。人間しか男の子を作れないって事は……」
頭の中でイケナイ想像が広がって、僕は頭を振るって想像を打ち消した。
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