第6話 目が覚めると知らないお城の天井 ウォンバット少女 モチポ

 やわらかいベッドに包まれながら、僕の意識がゆっくりと覚醒していく。


 周りからは地響きも、怒号も、まして刃を交える金属音なんて聞こえない。


 変な夢だったなぁ。


 さてと、今日は土曜日だし、公園でまたペットの飼い主さん達とお喋りをしよう。


 そう思って上半身を起こすと、僕は思考がフリーズしてしまった。


「え?」


 なんていうか、僕がいるのは自分の部屋なんかじゃなくて、うーんと、一言で言うと、お城の中?


 専門用語なんて知らないからどう説明していいか解らないけど、中世ヨーロッパを舞台にしたアニメやゲームに出て来る貴族や王族の一室っていう感じ。


 天上からぶら下がってるあれってシャンデリア? シャンデリアなの?


 部屋の調度品とか、ていうか僕の寝ているこのベッドも、なんかいちいち金細工とか、緻密な模様が彫られていたりする。


「何? ここ?」

「むぽー」


 何かが僕のお腹に触れるので見下ろすと、すぐ隣に、小学生ぐらいの小さな女の子がネグリジェ姿で寝ていた。


 誰?


 首をひねると、その小さな女の子が眠そうに目をこすりながら、ゆっくりとまぶたを開けた。


「……あ、ニンゲンさん目を覚ましたですか?」


 言って、その子は僕の腰に抱きついて、お腹に頬ずりをして来る。


「うぇええ!? ちょっ、君誰?」


 慌てて離れようとするけど、女の子はお日様みたいな笑顔で僕の胸元まで登って来る。


「はい、わたしはウォンバット族のモチポですよ。すりすりぃ」

「ウォンバット?」


 ウォンバット。脊索動物門哺乳網カンガルー目ウォンバット科。そして全動物中もっともじゃれてくる動物だと思う。


 人懐っこいというか、とにもかくにも触られるのが大好きで、ネットだと飼い主や飼育員の足にじゃれついて離れない様子が人気だ。


 確かに、今僕にこうして妙にじゃれついているし、良く見ると、モチポちゃんの耳はウォンバットのそれだ。


 猫耳カチューシャみたいに頭から耳が生えているんじゃなくて、頭の横、人間の耳が、獣耳になっている。


「何これ?」


 よくできたコスプレグッズかと思って触ってみるけど、引っ張っても取れないし、顔との継ぎ目がないし、何よりも温かい。


「はふぅ、ニンゲンさん、くすぐったいですぅ」


 目を細めて笑うモチポちゃんが可愛くて、僕は耳から手が話せなかった。


「色々と聞きたいんだけど、なんで君は僕と一緒に寝ているの?」

「はい、それはわたしが添い寝メイドだからですよ」

「添い寝メイド?」


 疑問を解消したくて質問したのに、また新しい疑問が出てきてしまった。


「はい、わたし達ウォンバット族は抱き心地が良いので愛玩や添い寝目的で王族貴族様に御奉公する人が多いんです。穴掘りが好きなのでモグラ族やアルマジロ族と一緒に農作業や建設業に従事する人も多いんですけどね」


 この子は笑顔で何を説明しているんだろう?


 モグラ族? アルマジロ族? 何それ?


 ていうかモチポちゃんて変わった名前しているけどどこの人なんだろ?


 日本語喋っているし肌の色も日本人ぽいけど……。


 可愛らしい顔立ちは、アジア系でも西洋系でもない。なんだか見たことの無い顔立ちだった。


 日本人とのハーフかな?


 その時、部屋の出入り口であろう大きな白いドアの金ノブが回った。


「今の声、ニンゲン様が目覚められたのなら連絡をしないといけませんよ、モチポ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る