第5話 世界唯一のニンゲンさん

 朝の目覚めのような感覚。意識と体の感覚がだんだんハッキリとしてくる。


 夢と現実の境でふわふわするような、そんな気分の中で気付く。


 あ、これ目が覚めるな。


 僕は口の中であくびをして、ドドドドド、という目覚まし時計の音を止めようとして手を伸ばした。


「ひゃん!」


 なんだろう。可愛い声が聞こえる。それにこのやわらかくて温かくて、でも絶妙な低反発力のある感触は何だろう?


 触っているだけど凄く幸せな気分になれる。


 学校のウサギよりもきもちいいや。


 この幸せ物質にずっと触って入れらたらどんなに幸せだろう。


 なんて考えながら、僕は目覚まし時計を探した。


 あんまりにも僕が停めないから、ドドドドド、っていう音だけじゃなくて、音声まで鳴っている……僕そんな目覚まし持っていたっけ? ていうか僕、目覚ましなんてセットしたっけ? ていうか、ベッド全体が振動しているんだけど……。


「ほえ?」


 僕が上半身を起こして目を開けるとそこには。


「全軍突撃ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいい‼‼」

「ニンゲンを確保しろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼‼」

「敵は全員ブチ殺せぇええええええええええええええええええええええ‼‼」

「帝国軍人の根性みせたれやぁあああああああああああああああああああ‼‼」

「殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!」

「ヒャッハーッッ‼」


 えええええええええええええええ‼‼‼?


 なんなのあれはぁあああああああああ!?


 僕の視界いっぱいに、遠くから外人モデルみたいにキレイで手足の長い女の人達が、スイカみたいなおっぱいを揺らしながら全力疾走してきている。


 しかもなんでか、みんな剣とか槍を持っている。


 僕は思わず身を硬くして、手にも力が入ってしまう。


「ぃやん! ちょっ、あんたどういうつもりで」

「え?」


 右を向けば、ブロンドヘアーに、ライオン耳カチューシャを被った女の子が真っ赤な顔で僕を睨んでいた。


 睨んでいたって言っても、恥ずかしさに、えっと……何かイケナイ快楽を耐えるような顔だったから全然怖くない。


 むしろ、すっごく可愛い。


 っで、僕は幸せ物質の正体を知った。


 彼女はRPGゲームのキャラクターみたいにコスプレチックな服装で、革製の鎧を着ていた。でも胸の辺りが鋭利な切り口で裂かれていて、インナーが丸見えだった。


 僕は、彼女のパイナップルみたいに大きな胸を、服の上から思い切りわしづかんでいた。


「わわ、ごめんっ! 僕寝ぼけていて!」


 必死になって謝るけど、その女の子は綺麗な顔に恥ずかしさと怒りを混ぜ込んだ表情にしたまま許してくれそうになり。


 今はまるで、僕への抗議内容を考えているようにも見えた。


 どうすればいいんだろう。僕、痴漢で捕まっちゃう! それよりもこの子にお詫びをしないと。


 僕は僕で、一生懸命彼女への謝罪の言葉を考えた。


 僕は混乱した頭のままで『やわらかくてきもちい胸だったよ』とか考えて自分を叱る。


 僕のバカ。そんなの余計怒られるじゃないか!


 でも僕にこれ以上考える時間は無かった。


 だって、彼女の背後からもエマージェンシーな光景が迫って来たから。


「何をしているネイア! さっさとニンゲンを保護しろ!」


 金髪の彼女はネイアっていう名前らしい。


 それでネイアの背後から、ケモ耳尻尾でコスプレした可愛らしい女の子達が走って来る。視界いっぱいに広がる女の子達はみんな可愛くて、キレイで、今まで女の子とはまともに口をきいた事の無い僕は、ますますパニックになってしまう。


 何なのここ? なんでこんなにたくさん女の子達がいるの?


 後ろからは、ものすごくキレイな女の人達が走ってきて。


 前からは、コスプレをした可愛らしい女の子達が走ってきて。


 ここって僕の夢の中?


 こんな夢を見ちゃうくらい、僕って欲求不満だったの?


 なんて考えていると、ネイアちゃんが僕を肩に担いだ。


「こっちへ来いニンゲン!」

「わわ!」


 僕を右肩に担いだまま、ネイアちゃんは走り出した。僕の上半身はネイアちゃんの背中側にあるから、僕らを追いかけて来る女の人達と思い切り目が合ってしまう。


『逃がすかぁあああああああああああああああ‼』


 女の人達がみるみる迫ってくる。


 こ、怖い。


 その妙な迫力に、僕は気圧されてしまう。


『させるかぁああああああああああああああああ‼」


 続いてコスプレ少女達が、追いかけて来る人達に次々襲い掛かって足止めをする。


 遠ざかる向こうで、女の子達の乱闘騒ぎが勃発。


 映画の撮影みたいに剣や槍をぶつけあって、凄い事になっている。


 ああそうか、これはきっと夢なんだ。


 僕は自分にそう言い聞かせて、夢から覚めるべく気絶した。

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