第3話 トリケラトプスVSサイ 女騎士たちの戦場

 地平線の果てまで続く青々とした草原を、一陣の風が吹き抜けた。


 青い空のした、四月の訪れを告げる春風を浴びながら草原を、否、戦場を獣の咆哮が支配する。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼」


 何千、何万という戦乙女達が革製の鎧と戦装束に身を包み、金属製の籠手で覆った我が手に得物を握り、猛り続けた。


 西の王国、西軍の女騎士達が全身を血に濡らし、東の帝国、東軍へと肉薄するが……。


「二番隊、三番隊、前身!」


 虎の耳と尾を生やした女指揮官の指示で、西軍から二つの隊が吼えて飛び出した。


 槍を手にした、狼の耳と尾を持つ少女達の二番隊。それに、グラディウスとラウンドシールドを手にした、ジャガーの耳と尾を持つ少女達の三番隊だ。


 対するは、


「ヌルいわ‼」


 少女ではない、大人の女性騎士達が一斉に鎖付き鉄球、モーニングスターを振るい、寸分の狂いも無く、少女達の腹に棘付鉄球をブチ込んだ。


 狼耳少女達と、ジャガー耳少女達は息もできない激痛の中、白目を剥いて視界を失い、血を吐きながら草原に仰ぎ倒れた。


 指揮官の指示を待たず、仲間を助けるべく虎耳の少女達が飛び出した。


 その決死の行動を、東軍は鼻で笑った。


「援軍ごと潰してくれるわ。トリケラ部隊! 突撃せよ!」


 頭から三本のツノを生やした、立派な体格の女性が声を張り上げる。東軍の指揮官だ。

「アアアアアアアアアアアアアアアアア‼」


 指揮官の檄に呼応して、部下の女騎士達が三本のツノ付き盾、トライシールドを構えて突撃を開始する。


 指揮官同様、いずれの女騎士も背が高く、大人びた顔つきの美女である。乳房や臀部の良く発育した豊満過ぎる体は、革製鎧の上からでも十分に見て取れる。


 西軍の指揮官は焦り、反射的に指示を飛ばした。


「まずい! 下がれ! サイ部隊は前へ!」


 虎耳少女達を守るように、額から一本のツノを生やした少女達が反応する。サイの耳を生やした彼女達も一本のツノ付き盾、モノシールドを構えて走り出す。


 サイ耳少女達は、少女と言っても十代後半ぐらいの容姿で、ライオン耳少女達よりも発育の良い身体をしている。


 背の高い少女達が鋼の意志を込め、全筋力と体重をこめたブチカマシで仲間を守ろうとする。彼女達は知っている、自分達の生まれ持った大きな身体が、仲間を守るためにあると言う事を。


 トリケラ部隊との激突間際、一人の少女が叫ぶ。


「王国軍突撃ぶたぁああああい! 応!」


『応‼』


 リーダーの声に合わせて、少女達は心を一つにしたチームプレイで、塊となって敵と激突する。


「バカじゃねぇの。お前ら?」


 女性達は少女達を見下ろし、歯を見せて笑った。


「これは、体重差とパワーで……」

「体ごと持って行かれる!?」

「みんな諦めるな! 絶対に」


 言いきる前に、少女達はかち上げられ、子供のように吹っ飛ばされてしまった。


 宙を舞い、サイ少女達にとっては最大の屈辱とも言える仰向けで草原に叩きつけられる。


 西軍有数の重量級部隊が命を張り、稼いだ時間は僅か五秒。


 その三秒で狼少女達とジャガー少女達は虎少女達が後方へ運んで行くが、今度はサイ少女達を助ける者がいない。


 ここだけではない。


 こんな光景が、戦場のあらゆる場所で展開されていた。


 トドメとばかりに、トリケラ部隊の背後から絶望的な集団が姿を見せる。


「あれは、ブラキオ部隊!?」


 トリケラ部隊が道を開けると、その奥から巨人達が不敵な笑みを浮かべて登場する。


 地球ならば、例えバレーボールのトッププレイヤーでも、ここまでの体格を持った女性は珍しいだろう。


 だがブラキオ部隊を呼ばれるその部隊には、そんな女性しかいない。



 身の丈以上の大剣を手に、冷徹な笑みでサイ少女達を見下ろす女騎士達。


 仲間が倒れているのに、ブラキオ部隊を見ただけで、西軍の誰もが委縮して咄嗟の行動に移せなかった。


 誰もが思う『あんな化物共を誰が止められるんだ』と。


「あんな化物……あたしらが止めるしかないだろう!」

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